「フェイバリット・ワン」 林 真理子

国内の弱小ブランドで働く駆け出しのファッションデザイナー、夏帆23歳。
恋も仕事もどこか中途半端だった夏帆は、様々な男性と出会い、パリコレで刺激を受け、野心に目覚めていく。
もっと素敵な恋愛をしたい。もっと上質な洋服のデザインをしたい。そして、世界から認められたい――。

◆  

主人公は、どこにでもいる普通の女の子。
お洒落が好きで、素直で、恋愛を楽しむ彼女は、まさに本書が連載されていた雑誌MOREの読者層そのものではないでしょうか。
小説版「野心のすすめ」とも言われている本書は、そんな彼女が「特別」を目指してひたむきに駆け抜ける物語でした。

では「特別」とは何か、というと、辞書によると「他との間にはっきりした区別のあること」となりますが、唯一無二である、代わりのきかない、そんなキラキラしたものを特別と呼ぶんじゃないでしょうか。
無難なところで収まるのではなく、どこまでもそのキラキラを手に入れようと駆け抜ける主人公は眩しく、まさに野心とはこういうものなんだと感じさせられました。

それぞれの登場人物のキラリと光る台詞も印象的でした。
カメラマン中谷さんは中でも素敵。
「キラキラした人の下にはさ、何十倍もの満たされなくって、自分の夢とは別の道を歩いていった人がいるんだよ。
僕はさ、そういう人をたくさん見てきたからさ。ちゃんとそっちに向ける視線も持っていようと思うよ」

なんて、言えるキラキラした人。

人が「特別」に惹かれるのは、本能かもしれない。
がむしゃらに頑張るのも、コツコツと積み上げていくのもいいけれど、「大人のルール」は守らないとね。

「うんと頑張ってつらい思いしてさ、今の自分になったわけだよね。
一段も二段も高いところに立ったら、違う景色が見えるのは当たり前かもしれない。だったらさ、相手の視界に入るように、こっちだって高いところにいかなきゃいけないんだよね」(p250)

★★★☆
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「29歳の誕生日、あと1年で死のうと決めた。」 葉山 アマリ

銀座のホステス、ヌードモデル、ラスベガスでギャンブル…
余命を1年と決めた彼女はもうすべて失ってもかまわないと思った。
日本感動大賞(第1回)大賞作品


30歳の誕生日まであと数日。
そんな時に、書店で偶然見かけた衝撃的なタイトル。
気になって思わず購入しました。本書はどうやら、第1回日本感動大賞なるものの大賞作品で、実話を基にしたノンフィクションとのこと。
恋人も友達もいない29歳の派遣社員が人生に絶望し、絶望の中自分の余命をあと1年と決め、人生のクライマックスを享楽の都ラスベガスに求め人生を変える。
そんな物語です。

冒頭の彼女の絶望はすごくリアルでした。
そして、そこにいきつくまでの過程も、なんだか「あるある」な気がします。共感する人、多いんじゃないでしょうか。
すらすらと読めて、クライマックスが近づくにつれてわくわくする。ドキドキする。

冒頭で絶望を共有しただけに、物語が進み彼女が変わっていくにつれて心地よさが体を駆け抜けていきます。
「死のうと思えば何でもできる」
陳腐かもしれないけど、実際のところそのとおりだと思います。
流動の1年を綴ったこの本は、たしかに勇気をもらえる1冊でした。

「経験を通じて自分のものさしを持つっていうのはとても大事なことなんだ。
それは君を人の評価から解放してくれて、生きることを楽にもしてくれると思う」  (p103)

★★★★

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「紙の月」 角田 光代

何不自由ない、けれど時に違和感がよぎる夫との生活。
もし、あの日、あの人に付いて行かなければ、
もし、あの時、あんな風に手をつけなければ、
もし、、、
たくさんの「もし」を越えて、ついに果てしなく遠いところへ流された梨花は…――。


一度転がり始めたものを止めるのが難しいように、物語はぐんぐん進む。

あっという間に読みきったけれど、とても、怖かったです。
読みながら梨花の万能感を共有してみたり、手に入れたい服や化粧品を次から次に買う光悦感を味わったりもしましたが、最後は体の芯から冷たくなるくらいに怖くなりました。

もしかすると、大きな事件を起こした梨花と自分を隔てているのはほんの些細な何かで、自分も容易くそちら側にいってしまうかもしれない、なんて思う程、梨花の誤ちは日常と地続きで、たわいもなく染まっていってしまったから。
梨花だって、きっとこんな事件を起こすと思っていなかった。むしろ、事件の渦中においてすら、そんな風に思っていなかったのだから。
私たちが社会で生きるにおいて「お金」の力は大きい。

お金が湧水のようにあれば、なんだって買える。一方で、お金があったところで何も手に入らない、あるいは残らないということがある。
それなのに、私たちは簡単にお金に支配されてしまう。
そのことが、なんだか悔しいような、苦い気持ちになるのです。
そんな呪縛から逃れるためには、月並みかもしれないけれど、地に足をつけて生きること、が必要なのかもしれないですね。

装丁も本書の雰囲気にぴったり。さすが角田さんだなと何度か泣きたくなるような気持ちになりながら読み終えました。

お金というのは、多くあればあるだけ、なぜか見えなくなる。
なければつねにお金のことを考えるが、多くあれば、一瞬でその状態が当然になる。 (p300)

★★★★☆

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「見えない糸―物乞いの少年とキャリアウーマンの小さな奇跡の物語」 ローラ・シュロフ

服役中の黒人の若者の数が、黒人大学生の数を越えていた1980年代。
一人の物乞いの黒人少年と、独身30代のキャリアウーマンの交わりを描いたノンフィクションです。


中国のことわざで、「出会う運命にある二人を結びつける見えない糸がある」というものがありますが、まるで違う世界に生きる二人の強い結びつきは、まさにそういったものを感じさせずにはいられません。
むしろ、いま私たちが出逢っているすべての人は、出逢うべくして出逢ったに違いない。
それがどれほど尊いことか、改めて感じ入る思いです。

エピローグは思わず泣いてしまいそうになりました。
謝辞の冒頭の言葉も胸に刺さります。
最後には実際の写真が掲載されていますが、これが実話だということに、胸が震えます。
誰かの人生にこんなにも深く関わり、その人の人生を大きく変え、救うことがある。それも、一方的にではなく、双方的に。

世界は広いですね。この本が世に出てよかったです。

私たちはみんな健全で悩みのない関係を求めるけれど、そんなものは存在しない。それでも人生が美しいのは、失望の中に奇跡のような恵みが隠れているからだ。 (p251)

★★★★

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「流れ星が消えないうちに」 橋本 紡

忘れない、忘れられない。あの笑顔を。
一緒に過ごした時間の輝きを。そして流れ星にかけた願いを――。
悲しみの果てで向かい合う心と心。せつなさあふれる、恋愛小説の新しい名作。


再読。美しい装丁に切なさが詰まった1冊です。
大好きな恋人を亡くした奈緒子が主人公です。
喪失の痛みと、それでも生きる人の強さに引き込まれました。
夜から夜明けに向けての物語は、一人静かに読むのにお勧めです。

作中でも言われていますが、年をとるってよいですね。
いろんな経験を積んで、少しずつ賢くなれる。前はわからなかったことが、わかるようになる。
それでも、いくつになっても悩んだり迷ったりもする。
不器用だけど、そんな「人」ってよいねと思います。

加地くんのように、繊細なアンテナと考える頭を持っている人にとって、生きることは大変なことかもしれないけど、その分たくさんの素晴らしいものを感じ、見ることができるんだと思います。
状況は変わらなくても、何かやってみるといい。立ち止まって考え続けるよりも、動き出すことで見えてくるものがある。
私も、そう思います。
重松さんのあとがきがまた心に響きます。
「空を見上げるのは、祈りだ。
傷つき、苦しんできたひとたち――永遠を生きることがかなわないからこそ愛おしい生を生きるひとたちが捧げる、歩きだすための祈りだ。」
あとがきもセットで読むことで、心に余韻が残ります。

だけど、ひとりで生きられるようにならなきゃいけないとも思っている。
でないと、結局、ただもたれ合うだけになっちまうだろう。それじゃ駄目なんだ。
ちゃんとひとりで立てる人間同士が、それをわかった上でもたれ合うからこそ、意味が生まれるんだ。 (p146)

★★★★☆

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「予知夢」 東野 圭吾

深夜、十六歳の少女の部屋に男が侵入、母親に猟銃で撃たれた。
男は十七年前に少女と結ばれる夢を見たと言う。天才科学者湯川、参上


摩訶不思議なことが次々起こるガリレオシリーズ短編集です。
久しぶりのガリレオシリーズ。
湯川さんが個性派イケメンでいい味を出してます。

脳内映像はすっかり福山さんで再現されてるため、イケメンっぷりに少しミーハーな気持ちになりつつ読了しました。
科学的なトリックについて、説明されてもいまいち理解できてない部分もあるんですが、科学や視点の切り替えで謎が解き明かされるのはおもしろいですね。
その一方でミステリーはそのままに、という部分があるのも余韻が残っていいですね。

★★★

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「REVERSE リバース」 石田 衣良

ネットで出逢い、メール交換を重ね惹かれ合う二人。
身近な人にも話せないような本音も、ここでなら言えた。
ただ1つ嘘をついていたのは、お互いの性別――。

ネットでの会話においては、顔が見えないからこそ、相手の性別についてあまり意識することがない。
それ故、余計なフィルターを1つ外して相手を見ることができる気がします。
女なのか、男なのか、ということではなく、一人の人としての相手を。

この小説については男女逆転ということで、そのフィルターが完全に外れていたわけではないけれど、ネット上では性別を隠すことだってできますよね。
本質的な人との交流という意味では、丁寧に言葉を紡ぐメールは1つの最良なツールなのかもしれないですね。
もし登場人物ややり取りを重ねたメールに感情移入できたらもっと楽しめただろうに、そこが残念でしたが、軽くさらっと読めるので疲れている日でも楽しめました。

おれ、男と女のあいだにも友情はあると思うんだ。
でも、そいつにも条件がある。まだやってない男と女の場合、双方が魅力的なときは友情は結べない。やっぱりセックスとか恋愛とか気になるからな。
だから、異性間で友情が生まれるのは、さんざんやりつくして別れたあとなんじゃないかな。心も身体も慣れて、よくしっている。もう無理して恰好つける必要もないしさ。  (p88)

★★☆

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■ この冬したい5つのこと

先日、秋に宣言した週末野心(その時の記事はこちら )を無事にすべて達成。
このリストを作ることで、季節を意識し、今まで以上に素敵な時間を過ごすことができました。
せっかく四季のある国に住んでいるのだから、もっと季節を楽しみたい。

そこで、今度はこの冬をもっと楽しむための冬のリストを作りました。
寒いの嫌い。冬はあまり外に出たくない。という、私。
リストを作ったところで寒いのが得意になるわけではないけれど、苦手な寒さの中でも冬を楽しんで過ごすことができたらいい、という想いを込めて。

この冬したい5つのことです。

● 手作りの冬アイテムで冬を迎える

● 特別寒い日にアップルパイを焼いて振舞う

● 暖炉のあるカフェでお喋りに花を咲かせる

● キャンドルのある食卓をつくる

● 干し野菜に挑戦する

楽しい冬になりますように。

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「ふがいない僕は空を見た」 窪 美澄

コスプレ高校生と主婦の密会、
姑に不妊治療を迫られる主婦、
呆けた祖母を介護する団地の高校生などなど、
「性と生」を綴った連作短編集。


本書のタイトルも、それにぴったり合う装丁も魅力的でずっと気になっていた本です。やっと手にできて大満足。
登場人物の視点が章ごとに変わるこのような連作、大好きです。
まず1章目を読み始めてすぐ、あまりのインパクトに、びっくり。
官能的というより、なんだか生々しい。

人が繋がって、生まれて、育って、1冊の本を通して人が生まれて生きることについて思いを馳せられます。
オープンにできない、ちょっと人には隠しておきたいような何か、をそれぞれ抱えて生きている。
生きる中で、生まれながらの、あるいは突如として登場する困難にぶつかっている。
そんな場面がすごく人間味に溢れていて、登場する人たちがどうか、幸せでありますようにと思わず願ってしまいたくなるほど。

それから印象的だったのは、
「乱暴に言うなら、自然に産む覚悟をすることは、自然淘汰されてしまう命の存在をも認めることだ」という言葉。
自然派化粧品、とか自然派食品、とか今は「自然」なんてキーワードが注目を浴びることが多いけれど、自然っていうのはそう、いい面ばかりじゃなくて自然の持つリスクだって受け入れてこそだよね、と思ったのです。
薄暗いようなカラーの中で、とても力強いパワーを感じる1冊でした。

本当に伝えたいことはいつだってほんの少しで、しかも、大声でなくても、言葉でなくても伝わるのだ、と気づいたのは、つい最近のことだ。 (p200)

★★★★

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■ 秋の読書にぴったりのカフェを発掘する

風が気持ちいい秋の昼下がり。
読書にぴったりの素敵なカフェに行ってきました。

行ってきたのは中央線の高円寺にある「アール座読書館」というカフェ。

ここは基本的に私語禁止の静かな空間で、聞こえるのは水の音と心地いいBGMと、時々マスターがコーヒーを挽く音が聞こえるくらい。
店内には手に取って読める本もあるし、席ごとにパーソナルスペースが確保されていて居心地がいいし、ついつい長居してしまいたくなります。

読書のお供のドリンクもこだわっていて、コーヒーから紅茶フレーバーティー梅レモン・サワーまでいろいろと選べる嬉しさがあって、私は温かいスパイスの効いたチャイをいただきました。

集中して本を読む!というよりは、本を読み進めてはぼーっとしていろいろなことに思いを巡らせたり、本当に頭の中を空っぽにして店内の心地いい音に耳を傾けたり、
こんな風な時間の過ごし方って、すごくすごく贅沢だなぁと、いい心のリフレッシュになりました。

入口の目印は、こちら。

とても居心地のいい読書にぴったりのカフェを見つけられて、大満足でした。