「ジェノサイド」 高野 和明

急死したはずの父親から送られてきた一通のメール。それがすべての発端だった。
創薬化学を専攻する大学院生・古賀研人は、その不可解な遺書を手掛かりに、隠されていた私設実験室に辿り着く。ウイルス学者だった父は、そこで何を研究しようとしていたのか。
同じ頃、特殊部隊出身の傭兵、ジョナサン・イエーガーは、難病に冒された息子の治療費を稼ぐため、ある極秘の依頼を引き受けた。暗殺任務と思しき詳細不明の作戦。事前に明かされたのは、「人類全体に奉仕する仕事」ということだけだった。イエーガーは暗殺チームの一員となり、戦争状態にあるコンゴのジャングル地帯に潜入するが…。

友人が大絶賛していたのですが、これは納得。

相当読みごたえのあるSF小説で、夢中になって読みました。
好奇心をくすぐられ、スリルに追われ、ページを捲る手が止められなかったです。

感想はネタバレです。何から書いていいのか迷うくらい盛りだくさん。
タイトルの「ジェノサイド」に、”未知の生物に対するもの”と、”私たちが歴史の中で行ってきたもの”と2つの意味が込められているように、過去と未来について考えさせられる内容でもありました。超越した生物を出すことで、人間の未熟さが浮き彫りになっています。

過去に私たち(ホモ・サピエンスという大きな枠組みの話です)が行ってきた虐殺の歴史から、人間が本能として持っている残虐性についての記述には、頷けるものがありました。
満たされている時には表出しなくとも、例えば食糧不足のように条件が揃えば発動されてしまうもの。悲しいけれど、これは現実だと思います。
そして、精神的、物理的距離が遠ければ遠いほど殺すことへの抵抗は減るというのも、言われてみればその通り。

米大統領も普通の人、とルーベンスが見ているように、殺戮の多くは決して狂気の人だけによって行われてきたのではなく、歴史の中で「普通の人」によって行われてきた、というのは忘れてはならないことだと思います。
殺戮のシーンは、痛ましくて読んでいて少し辛かったです。

フィクションですが、ところどころに現実を織り交ぜているからか、ただの物語の中のお話だ、で済まされない気にさせられました。
軍事、薬学、歴史、そして国際社会など広い範囲の物事を分かりやすい説明のもと触れられたのもよかったです。

ムブティがこの先も彼らが望むように生き続けられる世界であればと思います。
そして、ルーベルトとハイズマンの会話がまたよかったです。二人の間に流れる空気がいい。
実はあんまり役に立てていないルーベルトですが、彼がこの物語にいることは読者からしたら救いでした。

魅力は物語だけでなく、著者が伝えたいメッセージをいろいろ詰め込んだんだなというのがわかる一冊で、そこもまた素晴らしかったです。
人は残虐性を持っている。だけど、それだけじゃないよ。これからどうなるかは、私たち次第だよ。という希望が根底にあるのもいい。
地球で今何が起こっているか、どんな歴史があったのか、知ることは大切ですね。

イエーガーにせよ、古賀父子にせよ、親の愛情、家族の親愛も温かく胸に残りました。
いい面ばかりを書くのではなく、後悔もすれば、間違いも犯す「人間」の物語でもあったと思います。自分がヒトでよかったと、胸を張れるようでありたいと本書を読んで思いました。

『1つだけ言うなら、失敗のない人生などあり得ないし、その失敗を生かすも殺すも自分次第だということだ。人間は失敗するだけ強くなれる。それだけは覚えておきなさい。』 (p570)

★★★★★

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