「ファウスト〈第一部〉」 ゲーテ

読めば読むほど味が出てきます。
「前狂言」の章で、大勢の人を楽しませるにはどうしたらよいか。
それならいろいろな物を詰め込んでみればいい。そうすればきっと何かしら一つは好みのものを見つけてもらえる。とあるように、盛りだくさんの内容です。
だからこそ1回読んだだけでは味わいきれず、ただすごいすごい、という感じで終ってしまいます。

さすがゲーテだけあって詩句も見所の1つです。
翻訳者の腕もあるんだろうけども、切ない恋の歌から珍妙な魔女の詩までテンポもセンスもよく楽しめました。中でも「グレートヒェンの部屋」の章でグレートヒェンが詠ってる詩は格別です。
主人公であるファウストは私からするととても素直な人のように思えます。
自分が知りたいことに対しては懸命に努力し、自分が求めていたものが得られないと知ると深く絶望し、グレートヒェンに恋をした時はただひたむきに愛をかかげる。とても真っ直ぐな人だと思います。
その真っ直ぐさは人間の一番美しい部分の一つなんではないでしょうか。
ただ、それは純粋であればあるほど、他人を気にかけないエゴになってしまいます。

実際のところ、私たちは自分の気持ちのみに忠実に生きていくことはできません。
社会の制約が、また人との関わり合いがそうすることを拒みます。
それでも、その純粋さを究めた人、それこそがファウストです。
彼の姿にはそういった美しさがあります。しかし、その陰では犠牲になったものも多く、それが故にこの物語は美しさを伴う悲劇なのです。

ファウスト: 己は自分の心で、全人類に課せられたものを
        じっくりと味わってみたい。
        自分の精神で、最高最深のものを攫んでみたい。
        人類の幸福と苦悩とを己の胸で受けとめてみたい。

         そして己の心を人類の心にまで拡大し、
         最後には人類同様、己も滅んで行こうと思うのだ。

★★★★☆

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