「鴉」 麻耶 雄嵩

弟の失踪と死の謎を追って、地図にない異郷の村に潜入した兄。
襲いかかる鴉の大群、連続殺人…メルカトル鮎が導く逆転と驚愕の結末。
東京創元社98年度「本格ミステリ・ベスト10」第一位。


地図に載っていない異郷の村が舞台で、登場人物の名前はルビがないと読めないような個性的な名前で、一風変わった独特な世界観にすぐに魅了させられました。
外の世界から閉ざされた四方を山に囲まれた村だなんて、ミステリーの舞台にぴったり!

本書は97年のNo1ミステリーにも輝いた作品だそうで、どこにどんな伏線が張られているのかと目を凝らして読んでいたんですが、読めば読むほど謎が深まるばかり。
とはいえ、やっぱり伏線はいたるところに張られていたんですよね。読み返してみるとなるほどと思うところもたくさん。

<ネタばれ>

さて、犯人については「紙」がヒントになって宮の人が怪しい…と思いつつも、琢ちゃんの態度から、琢ちゃんが見たであろう橘花たちには言えないような近しい人…橘花のお兄ちゃんが実行犯か?!とか思ったり(あんなに兄目線のエピソードも出てくるし、何かあると思いますよね)したんですが、まさかあの人とは。

それから、兄目線と弟目線の語りにはすっかり騙されましたね。読み返してみると、確かにどちらの視点からも橘花の兄が櫻花とは言っていないし、櫻花の弟が橘花とは言っていない…。
名前から何の疑いもなく、兄弟のそれぞれの視点からの物語だと思いましたよ。兄弟の年齢もどちらも1つ違いだし、畑仕事とかも共通してるし…!ミスリードのさせ方がうまいですよね。
弟の誕生日エピソードで「お寿司」を用意したという母のセリフがあって、海がないのにお寿司?とちょっと違和感はあったのに深く考えずに読み飛ばしてました。もちろん巻き寿司とかの可能性もあるけど、お寿司っていったら普通はお魚が乗ってるお寿司を思い浮かべますよね?それに蒸し鶏なんてちょっとハイカラな料理、なんだかこの村で作られなさそうに思ったのに、最後にネタばらしされるまで気付かなくて悔しい!

そして、まさかみんなが○○というオチだったとは。閉鎖的なこの村の独特な色合いの背景にこんな秘密が隠されていたなんて。
私たちに当たり前に見えているものが当たり前じゃない、ということを示すおもしろい着眼点ですよね。

ミステリーとしてはすごく面白かったけど、やっぱりどこか現実味がなく感じてしまう。
罪を犯すと浮かび上がるという痣についても、実際に見た人がいるからこそ信じられているけど、大鏡様の正体を知る側近までもが心底信じられる程吸引力のあるものには思えない。
時を司ると言われている大鏡様の鐘は、大鏡様亡き後は側近が時計を見ながら撞いていたんでしょうか。
なんだか、絶対的な信仰心と、大鏡様を軸とした政治的システムが自分の中でいまいち上手く両立できるものに感じられなくて、少しもやもや。俗世的な考えに塗れているところがありつつも、信仰心を建前として動いてるとは思えないくらい、みんな信じている様子だったので。
側近にはいっそ、信仰心よりも村を守りたいというシステムの維持に重点を置いてほしかったかも。とはいえ、これは好みの問題ですね。

そして襾鈴と珂允が同一人物だったのいうのも最大の驚きポイント。
最初はいくらなんでも同一人物と気付かないはずないだろうと思ったのですが、入れ物が同じでも中身が違えば立ち振る舞いや雰囲気が全く変わるし、そういうこともありえるのかな。
主人公が現実と夢をゆらゆら彷徨っていて、何が本当なのか見失いそうにもなりましたが、わりとすっきりした読み心地です。

しいていえば、タイトルにもなっている「烏」について、半年くらい前から始まった烏の襲撃に何か理由があると思いきや何もなかったことに謎が残るくらいでしょうか。

★★★★

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1.

 麻耶雄嵩さんの長編推理小説です。 あらすじ  何者かに弟・襾鈴(あべる)を殺された珂允(かいん)。彼は襾鈴の死とその直前の失踪の原因を探る為に、地図にない村に潜入しよう…


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