「One World」 喜多川 泰

僕たちの世界は、ひとつにつながっている。
少年野球、サービスマン、卒業式、バレンタイン、超能力、就活、日本、出稼ぎ、恋愛…。
異色の小説家が描く、「縁」をつなげる長編小説。

誰もが誰かの人生に影響を与えている。
この世界はそうして成り立っている。
そんなテーマに基づいた、連作短編集です。

それでいて、それぞれの短編にもばっちりテーマがあって、最初は喜多川さんが短編だなんて意外だなと思ったんですが、読んでみたら長編並みに大きな物語でした。

いつ読むかによっても心に残る箇所が違うかと思いますが、特に今回心に残ったのは「失恋」がテーマの章。
「つまりね、『苦悩』こそが、今の私を作り上げたと言ってもいい程なんですよ」という老人の言葉で始まる、苦悩がなければ内省もなかったし、今の自分にたどり着かなかった、という言葉がすごく胸に響きました。
思い返せば実際のところ失恋に限らず、苦悩を乗り越えたら更なる苦悩があって、なんてこともありましたが、その度に苦しみつつも自分に何ができるのか、何がいけなかったのか振り返っては今の道に繋げてきたような気がします。
苦悩なんてないに越したことはない、と思うけど、何の苦悩もなければ今の自分にはなれなかったのは確実で、そう思うと少し今の自分を認めてあげたい気持ちになります。

それから、「自分が心から大切にしているものは、大好きになるんだ」って言葉も心に残っています。
好きだから大切にする、ではなく、大切にするから好きになる。
確かにそのとおりだよなぁと。人でもモノでも環境でも、大切にできる人でありたいし、そうして周りのものを好きでいられる人でありたい。

本当に人は深く付き合いのある人に限らず、ちょっと話を聞いただけの人から強く影響を受けることもあるし、自分では大したことをしていないのにすごく感謝されることもある。
生きている限り誰にも影響を与えずにいられないなら、少しでもいい影響を与えられる人でありたいものですね。

喜多川さんが書く本はいつも軸がしっかりとブレずにあるのに、毎回新しい発見があってはっとさせられます。
また読み返したいし、誰かに贈りたくなるような1冊です。とてもいい本でした。

「一生懸命貯めたお金も、がんばって買った家も、今やもう残っていないんです。
ようやく気づいたんですな、残せるものは、集めたものじゃなくて、与えたものだって」
(p114)

「だからね、『苦悩』に出会うたびに私は思ったんです。
これがあったから今の幸せがあるって断言できる未来にしなければってね」
(p119)

「人は、行動を見れば心で何を考えているのかわかる」 (p209)

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