「花のれん」 山崎 豊子

船場に嫁いだ多加は頼りない夫を立ててよく働くが、夫は寄席道楽に耽って店を潰す。
いっそ道楽を本業にという多加の勧めで場末の寄せを買った夫は、借財を残したまま妾宅で死亡する。
多加のなりふりかまわぬ金儲けが始まった。金貸しの老婆に取り入り、師匠たちの背中まで拭い、ライバルの寄席のお茶子頭を引き抜く―――。

細腕一本でみごとな寄席を作りあげた浪花女のど根性の生涯を描く。
第39回直木賞受賞。

商いに生きた女興行師の生涯を描いた、直木賞受賞作

楽な方についつい流されてしまう弱い夫を持った多加の、誇り高く、魂を削って商いにすべてを捧げた生き様が圧巻です。
正直、そこまでする?という程の努力と気遣い。

多加の才覚ももちろんありますが、事業を大きくしていった根底にあったのが、人との縁でした。
たしかに運もあったんでしょうが、人との縁を作るために、待たずに行動していったところに運を呼び込む鍵があったように感じます。
人との縁を作るための多加の努力がいじらしい。
最近こんな風に脇目を振らないで何かをひたむきに頑張るってことがないな・・・とふっと自分を省みたり。

多加は自身の生き方を、独楽に喩えているんですよね。

“わてみたいな商売人は、独楽みたいなもので、回っている間だけがたっているので、動きが止まった途端に倒れますねん、商人て何時まで経っても、しんどいものだす“ (p257)

多加の人生は辛いことも多くて、決して楽な人生ではないし、本当に走り続けることしかできなかったんでしょうが、そうすることでしか手に入らないものは確かにあるだろうし、ある場面は涙なしでは読めません。

この小説の魅力の1つは、なんと言っても大阪弁。
商業言葉である大阪弁の、なんとも複雑豊富なニュアンスを持つ巧みな言葉であることか。
本当に言葉が美しくて、特に商いの交渉場面は必見です。

商いに生きたとはいえ、損得勘定のみを考えるではなく、常に「人」を大切にしていた多加の生き様は、いつの時代も人の心に響きます。

「そらそうや、二流の寄席で金も無いのにそないせんでもええのやろ、そやけど今のわては、何でも肥料をせんならん時や、肥料の足らん処からはろくな産物出来しまへん、

肥料が出来て、苗がつくまでがしんどいのんや、わてが煙草一本の楽しみもせんと節約して祝儀切るのは、この苗をつけたいさかいだす、芸人衆へ祝儀切るのはわての商いに資本入れてるので、一つも無駄になれしまへん、切って、切って、切りまくって、南で一流の寄席持たんことには」 (p109)

★★★★

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