「とにかくうちに帰ります」 津村 記久子

「危ないぞー!」「手を掴め!」「俺はいいから先にゆけー!」みたいなドラマはない。
泣きながら「ありがとう!!」と叫ばれるようなことも、だからないが、でもささやかで大切な手助けを、それぞれがしている。粛々と、淡々としている。

この物語は、「世界は素晴らしい!」とは言っていない。
でも、悪くないんじゃないか、いや悪くないと思えるかもしれないじゃないか、そう思わせてくれる。嘘くささがみじんもない。
まっすぐな態度で、私たちの取るに足らないとされる日常、なかったことにされる感情を認めてくれている。

―――あとがき(西加奈子さん)より。

切ないぐらいに、恋をするように、うちに帰りたい――。

目に入った瞬間に購入してた、津村さんの新刊です。
最近になってようやくわかってきたのですが、10月11月は私にとってわりと低空飛行な時期のようです。
ものすごく不調なわけではないけど、あまり本を読む気になれず、仕事が嫌いなわけではないけど、早く帰りたい気持ちが募る時期。

この本との出会いは必然だったようにすら感じます。
いつものことながら、津村さんの小説には劇的なドラマは起こりません。ごくごく日常的な生活をとても丁寧に、大事に描いています。

「職場の作法」と題された連作短編集には、鳥飼さんから見た職場の同僚たちが登場します。
これがまた、「いるよね、こういう人!」という人たち。
中でもツボだったのは、最初から登場してくる田上さん。彼女のちょっぴりブラックながらも誇り高い態度とノートにやられます。

日常に寄り添って描かれたこの物語は、決して平凡というわけではなくて、登場人物それぞれがいろんな問題を抱えたりしながら、それでも日々を生きている、という、当たり前といえば当たり前のことをどれだけきちんと捉えられているのか、ということを意識させてくれます。

当たり前のことって、普段は意識せずにするりと流れてしまうもの。それをきちんと捉えて提示できるのは、あとがきで西加奈子さんも述べていますが、津村さんのセンスなのでしょうね。

ささくれた気持ちが癒されました。やっぱり津村さんだいすき。そして、西加奈子さんのあとがきがまた、超絶よかったです。

★★★★

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1.とにかくうちに帰ります(津村記久子)

連作短編「職場の作法」4編と短編2編という、ちょっと変わった形式の短編集。あ、短編2編のうちの1編も「職場の作法」と同じ主人公なので、実際は連作5編と単独1編って感じで…


「とにかくうちに帰ります」 津村 記久子” への2件のコメント

  1. 私も田上さんがツボでした!仕事の進め方が、「そういう方法があったのか!」と膝を打ちたくなるような方法で、真似したくなりました~(笑)ノートの中身も気になりましたが、想像してたのとはちょっと違ってたかな。田上さん、出来た人だなぁと思ったんですけど。私ならきっと閻魔帳みたいになってるような気がします^_^;

    当たり前な日常を切り取った、そんな津村作品がクセになりそうです。

  2. すずなさん、こんばんは~^^
    田上さん、いいですよね!私にもない発想で、そんなこと考えて仕事してる人がいるのか!と衝撃でした。ノート、私も思ってたのと違いましたね、もっとダークな感じだと思ってました。笑
    いい意味で予想を裏切ってくれたというか、ほんと志高い人ですよね。
    私なら閻魔帳になっただけでなくて、それを落として人に見られるというおまけまでついてきそうです・・w

    なんだかほんと、当たり前の日常に寄り添ってくれるからこそ、毎日をいつもよりもすこし大切に思えて、それがクセになりますね。

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