「W/F ダブル・ファンタジー」 村山 由佳

35歳の奈津は売れっ子脚本家。仕事は順調だが、マネージャーである夫の支配的な態度に萎縮し、精神的にはギリギリの日々。
そのうえ奈津は人一倍性欲が強く、躯の奥から溢れる焦りと衝動になんとか堪えていた矢先、敬愛する56歳の演出家・志澤とメール交換を始めたのを機に、女としての人生に目覚めていく。
志澤の、粗野な言葉遣いでの“調教”にのめり込む奈津。
そして生と性の遍歴が始まった…。柴田錬三郎賞ほか文学賞三冠受賞。文壇に衝撃を与えた迫力の官能長篇!

女としてのリミットに焦りを感じる奈津が選んだ、“外の世界”での道のり。
男女間の情愛だけでなく、性愛もとことん突き詰めた作品です。
これは、読む場所も、読む人も選ぶ本だと思います。
ストレートな装丁(特に裏面)に、帯には「ほかの男と、した?俺のかたちじゃなくなってる」。村山さんの本でなかったら、ぎょっとしておそらく、手に取るのを躊躇ったと思います。

最初は、読んでただただ圧倒されました。
「引き込まれる」小説に出会うことはあっても、こんな風に引きずり込まれる、あるいは相手から迫ってくるような小説は稀に思います。
10代で読んでいたら嫌悪感しか感じなかったかもしれないし、私が男性だったら首をかしげて終わっていたかも。
それでも、全ての人に伝わるように書いていなくても、私は「よくぞ書いてくれた」と絶賛したいです。

普段考えもしないのに、どこまでが著者の経験からで、どこからが創作なんだろうと考えてしまうほどに著者の魂のようなものを作中から感じました。どれもこれもが本当にリアル。
どこまでも自由であろうと、孤独も責任も受け止める覚悟でいながら、気づくと相手に依存してしまう自分から抜け出せずにいる。
奈津のそんな姿に哀しさを感じ、幼少期における母の影響の強さを思い知ります。

正しい、正しくない、という問題ではなく、多くの人が心に蓋をしても平穏な生活をおくることを望む中で、周りも自分も傷つけても茨の道を歩かずにいられないのはきっと苦しく、痛いほどの解放感なんだろうと想像します。
とにかく、いつまでも余韻が続く1冊でした。

結局のところ、依存心とは自信のなさの顕れなのだ。仕事を通しての自信ならば、評価されるだけの脚本を書くことで取り戻せる。だが、女としての自信は・・・ただ一人の男から肯定されることでしか取り戻せない。  (p227)

★★★★★

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