「きみ去りしのち」 重松 清

幼い息子を喪った「私」は旅に出た。前妻のもとに残してきた娘とともに。
かつて「私」が愛した妻もまた、命の尽きる日を迎えようとしていたのだ。

恐山、奥尻、オホーツク、ハワイ、与那国島、島原…

“この世の彼岸”の圧倒的な風景に向き合い、包まれて、父と娘の巡礼の旅はつづく。
鎮魂と再生への祈りを込めた長編小説。

喪失感との向き合い方を、静かに探る1冊でした

幼い子を亡くした親と、これから親を亡くす子が交叉する物語でした。
雲が空を流れるように、旅をし、流離い、日本各地の景色を目にします。さまざまな人と出会い、別れます。

あとがきで重松さんは、「「忘れる」のでも「乗り越える」のでもない、喪失感との折り合いのつけ方を探ってみたかった」と述べています。

本当に大きな喪失を前に、人は忘れることも乗り越えることもできず、ただ立ち尽くす・・・けど、生きなくてはいけない。その闇の深さに慄きます。
喪失が大きい程、その人の時間というのは止まってしまうんですよね。だからこそ、旅が題材に選ばれてるのがすごく自然に感じました。
なぜなら、人も水と同じで、止まっていたら澱んでしまうと私は思っていて、喪失体験で時間が止まってしまうなら、自分からあえて働きかけて、時間を動かさないといけないと思っているから。そして、旅はそのきっかけになると思っているから。

圧倒的な景色と人との出会いは、人を癒すんですよね。

この本は、天気でいうと曇り空です。そう、曇天。
それが、すごくほっとします。明日香たちの曇天の掛け合いのシーンが好き。

水滴が大地に染み込むような、心の奥に届く言葉がいくつもありました。それに、振り返ってみると頭に浮かぶ美しい映像も。
どんなことがあっても時間はちゃんと流れている、ということにふと救われる気がします。誰のせいにもできないことは辛いけど、人は、ちゃんと前に進めるんだと思わせてくれる1冊でした。

一生消えない傷を心に負っても、ひとは一生泣きつづけるわけではない。
そして、涙が涸れたからといって、傷が消えてしまったわけでもない。
私たちがこれから背負っていくのは、涙の出ない哀しみなのかもしれない。 (p169)

★★★★

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