「偶然の祝福」 小川 洋子

お手伝いのキリコさんは私のなくしものを取り戻す名人だった。
それも息を荒らげず、恩着せがましくもなくすっと―。

伯母は、実に従順で正統的な失踪者になった。
前ぶれもなく理由もなくきっぱりと―。

リコーダー、万年筆、弟、伯母、そして恋人―失ったものへの愛と祈りが、哀しみを貫き、偶然の幸せを連れてきた。
息子と犬のアポロと暮らす私の孤独な日々に。
美しく、切なく運命のからくりが響き合う傑作連作小説。

音がない、という不思議な感覚

久々に小説に酔う、という体験をしました。
時差ボケで気持ち悪い、というのと似ていて、自分にとってまるで異世界であるSFやファンタジーの世界に入り込むのとは違った、例えばアメリカなどの海外と日本を行き来すると生じる体内時計のズレのような感覚。

村山春樹さんの「ノルウェーの森」を読んだときも感じて、これは現実の話なんだけど、ある種私の知っている現実ではない。
いわば、統合失調症の人が見る世界のよう。
ノルウェーの森も、この作品も、どこにも「統合失調症」なんて出てこないけど、複数の世界を生きるかのようなこの感じは、統合失調症の人特有の世界の見え方な気がします。

読んでいてこの小説は、すごく静か。驚くくらいに音がないです。
事実だけを見ると波乱万丈な人生を送っている “私” ですが、どこか現実とは遠いところで生きているかのよう。
生きにくさを抱えながらも、「書く」ということがいつも人生の危機から彼女を救ってくれていたように思います。それから、いつでも逃げ込める空想の世界が。

朝起きて、何か夢を見たみたい、と感じるのと同じ読了感。不思議な、小説でした。この世界を作り出す小川さんの力量がまたすごい。

★★★

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