「舟を編む」 三浦 しをん

真面目一徹な馬締は、白羽の矢を立てられ「辞書編集部」へ。
そこで、新しい辞書『大渡海』の編纂メンバーとして迎えられる。
遅々として進まぬ辞書づくり。

しかし、言葉という絆を得て、彼らの人生が優しく編み上げられていく。


装丁も題名も、どうやら題材が「辞書づくり」だということも、ずっと気になっていました。以前から読みたくて、ドキドキしながらページを捲った本でした。
読めてよかった。
まず、テーマが好き。
辞書は、単なる辞書にあらず。大渡海を渡る「船」である、という。
この広い世界で、溺れずにしっかりと目的地に辿り着くための要である、と。「言葉」というものに、徹底的に焦点を当てています。
日常的に用いているため、あまり意識に上がらないかもしれない1つ1つの言葉というものが持つ役割、その存在がクローズアップされ光ります。

誰かに何かを伝えることは、とても難しい。
だけど、私たちははるか昔からずっと、伝えようと努力をしてきた。
過去の遺物のような認識でいた辞書が、ものすごい存在感で迫ってくるようでした。昔は辞書とか百科事典とか、すごく身近な存在だったのに、いつの間にか全然手に取らなくなったなあ。
知らない単語も、前後の文で大抵は意味が掴めるし・・・なんて、わかったつもりでいて実は曖昧なままのことって、案外多い気がする。
言葉を大切に使う人はとても好感が持てる。仕舞い込んでいた辞書を、手の届く場所に移そうと思いました。不器用でも馬締さんの言葉が相手に届くのは、彼の言葉に対する誠実さもあるんでしょうね。

登場人物もユーモアたっぷりで楽しい。
個人的にはタケさんが大好き。「タケおばあさんは、馬締に向かって両目をつぶってみせた。本当はウィンクをしたかったのに、失敗したもようだ。」とか、何?もう、かわいすぎる!タケさんのさり気ない優しさもいい。
あとは、やっぱり西岡さん。
チャラチャラしてそうに見えて、芯がある人はカッコいい。

辞書をつくるって、壮大なことなんですね。
考えてみれば、言葉は生き物のようなものですものね。最近ニュースで中高生に聞いた辞書に入れたい言葉第一位で「エアーイン」という言葉があると知りました。初めて聞いた単語ですが、「空気を読んだ上でその場の雰囲気に入る」という意味だそう。
その一方で、今ではまるで使われず実社会からは消えてるような死語もたくさんあるでしょうしね。辞書をつくるというのは、とても意義のあることでしょう。辞書づくりの中で、「ぬめり感」まで追及してる場面にちょっと感動。地味ながら、熱い世界だな。

最後にブックカバーを外してイラストを見ると、1つ1つどの場面かしっかりわかって、思わずにやり。

「ひとは辞書という舟に乗り、暗い海面に浮かび上がる小さな光を集める。もっともふさわしい言葉で、正確に、思いをだれかに届けるために。もし辞書がなかったら、俺たちは茫然とした大海原をまえにたたずむほかないだろう」  (p27)

★★★★

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