「李歐」 高村薫

惚れたって言えよ―。
美貌の殺し屋は言った。その名は李欧。

平凡なアルバイト学生だった吉田一彰は、その日、運命に出会った。ともに二十二歳。
しかし、二人が見た大陸の夢は遠く厳しく、十五年の月日が二つの魂をひきさいた。

『わが手に拳銃を』を下敷にしてあらたに書き下ろす美しく壮大な青春の物語。

君は大陸の覇者になれぼくは君の夢を見るから――。

読み終わって今なお、余韻で胸が痛いです。

鮮やかな残忍さと透徹を備えた聡明で美しい殺し屋と、幼い頃から虚無感を抱き続けたクールな男の、長く壮大な物語でした。

あまりにも濃い物語と美しい情景に余韻がしばらく消えそうにありません。特に本書の桜の描写は見ものです。なんといって言葉にすればいいのか。

1960年以降の日本が舞台ながら、中国の広大な大地、マニラの山林、シカゴの証券取引所など殺し屋が駆け巡った土地は世界中におよび、スケールの大きさが伺えます。
そして、本書はなんといっても裏社会に魅入られた男が主人公なだけあって、普段私の知る世界とは全くの別物で、夢中で読んでふと現実に戻るとそのギャップに背筋がぞくっとするほどでした。
こんな世界、私は知らない。

随分とハードボイルドな作品で色気もあり、男性二人のやり取りには本当にぞくぞくさせられました。
「運命」と言うと陳腐な感じがしてしまうし、彼ら二人の繋がりは「愛」とも「友情」とも単純に呼べるものではないと思うのだけど、一生に一度の鮮烈な出会いだったんですよね。
生きるか死ぬかの世界を生き抜いた殺し屋にしても、母に捨てられ醒め切ったような男にしても、確かに残っていた純な部分が互いに呼応したんでしょうか。うまく言えませんが、言葉で説明しようとすること自体が、無粋なのかもしれませんね。

冷徹なこの世界ではたくさんの人が殺されますが、田丸刑事にせよ、ギャングたちにせよ、一定の矜持を持っていると感じられる人も数多くいて、そこが格好いい。
私には想像もつかないような、政治的な駆け引きなんていうものが存在する世界なんですよね。思想の違いで人が死ぬ、なんて平和な世界に生きているとピンときませんが、この時代の日本、それも中国との距離が近い彼らにとっては肌に感じる程身近なものだったんでしょうね。

機械工場や拳銃、薬物と、広大な土地に咲く何千本もの桜、耕された農作物との対比がまた印象的で、なんとも美しい余韻を心に残す1冊でした。
しばらくは思い返して余韻に浸ること必須です。

★★★★☆

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「李歐」 高村薫” への4件のコメント

  1. yocoさん、こんばんは!

    おぉ~~『李歐』だぁw(゚o゚*)w
    私もつい最近読んだばかりなのですが、ラストは本当に胸がいっぱいになりますよね!
    温かいけれどどこか切ないような、何とも言えない気持ちになりました。

    一彰と李歐の関係をどう表現したら良いのか分からないけれど、
    もう魂が繋がっているような感じなのかなって思いましたよ*^^*
    前半の展開はなかなかヘビーでしたが、
    最後の何千本もの桜の描写だけで、読んで良かったと心から思いました。

    またいつか再読したいなと思います。

  2. nanacoさんこんばんは~^^
    偶然ではなく、nanacoさんの記事を読んで早速借りに行ったんですよー。笑
    しかも、今nanacoさんのところにコメントしに行って戻ったらちょうどこのブログにもコメントいただいてて、タイミングがぴったりで笑いました。
    これは、思い返しても本当に胸が熱くなりますね。
    それにすごくこの興奮を共有したくなる。。。

    >一彰と李歐の関係をどう表現したら良いのか分からないけれど、
    >もう魂が繋がっているような感じなのかなって思いましたよ*^^*
    そうですね、ほんとそんな感じ・・・!
    北方さんが以前書かれていたハードボイルドで、出会ってからの時間の長さなんて関係なくて、出会ってすぐにわかりあえる人もいれば、長くいてもそうでない人もいるという趣旨の文章があったのですが、そのことをふと思い出しました。ほんと、魂が強く結びついているようですよね。

    何千本もの桜の描写も、工場の大きな桜も、とにかく美しかったですね。
    春が来るのがすこし待ち遠しくなりました。
    それにしても、李歐の発想の大きさにも彼の器の大きさを感じましたね。
    最初はまさかこんな展開になるとは予想もできず、本当に素晴らしい作品でした^^

  3. 初めまして、ブログにコメントありがとうございました
    早速エコーさせていただきます。

    この作品を読んだのはずいぶん昔でしたが今でも印象に残っている
    作品です。
    髙村女史の作品はこの作品と『マークスの山』しか読んでいませんが
    2作は私の中でもベストに入っていますよ
    今年は髙村女史の作品もっと読んでみようと思っているところです

    やはりこの作品は30年と言う年月で一人の男の成長を描いている
    のが面白かったです
    どのスパンごとにもエピソードが盛り込まれその都度一彰が成長して
    いってますし、どんな辛い経験をしてきても最終的には幸せな家庭を
    持てたのが良かったですね
    一彰と李歐の関係は心の奥底に帰依する繋がりみたいなもので
    そこには他人には分からないおそらく本人達も分からない繋がり
    があるのだと感じ取れました
    BLのようなセリフもありますが二人の関係の本質はそんなことではな
    いと思いますね

    こちらも長文になりましたがこれからもよろしくお願いします

  4. ねむりねこさん、こんばんは^^
    こちらこそコメントありがとうございます。
    時間が経っても強く印象に残っている本は何冊もありますが、この本は私にとってもそんな1冊だと確信してます。
    髙村さんの本は初めてでしたが、「マークスの山」もいいんですね。私も他の本も読んでみたい気持ちでいっぱいです。

    長い、時間ですよね、この30年。
    しかも時代の変化を感じさせつつ個々の成長や変化を描いているので圧倒的でした。
    辛いことも多かったと思いますが、幸せなこともきちんと訪れていたのには胸が温かくなりましたね。
    一彰と李歐の関係は、ピンポイントだけ見ると確かにBLっぽい場面や台詞もありますが、あの深い繋がりは性別を越えた深い繋がりのようにも感じました。
    そこを読み取るとまた物語は深みが増す気がしています。

    こちらこそ今後もどうぞよろしくお願いします^^

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