「生まれる森」 島本理生

失った恋と、再生 少女時代の終わり。

失恋で心に深い傷を負った「わたし」。
夏休みの間だけ大学の友人から部屋を借りて一人暮らしをはじめるが、心の穴は埋められない。
そんなときに再会した高校時代の友達キクちゃんと、彼女の父、兄弟と触れ合いながら、わたしの心は次第に癒やされていく。

堕ちていくだけだとわかっていても深みにはまってしまう恋を「森」にたとえ、著者はその鬱蒼とした「森」と、陽気な友人一家の様子を対比させて描く。

尖った感性に人の優しさが響きます。

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「人が恋を失った直後の生々しい感情をラフスケッチのように素早く書きとめ、そこから出たいと願う人のためになればいいという思いだけで一冊書き上げた」

とは、あとがきから。
「ナラタージュ」を思い起こさせる、恋とも愛とも思える想いの結晶と、深い喪失感と絶望。
深く共感しながら読み進めました。島本さんの恋愛小説、やっぱり大好きです。いつでもここには救いがある。

島本さんの感性も恋愛観も好きですが、本書で特に好きだったのは、キクちゃん家族。
父親はもちろん、3兄弟の仲の良さや互いを思いやる距離感が心地よくて、読めば読むほど素敵な家族だなと心温かくなりました。
いわゆる一般常識ではなく、自分たちの価値観を大事にしている姿勢が共通していて、そんな生き方をできることがかっこよくも映りました。

感受性が強いこと自体は生きにくさに直結するものではないと思うけど、何か壁にぶつかったときや、深くまで心を揺さぶる恋愛を前に、振り回されず生きていくことは簡単じゃない。
けど、大人になるにつれて、そういったことも少しずつできるようになってくる。
10代後半から20代前半にかけての、一番心がささくれ立つ自体を、こんなにも丁寧に寄り添って書き上げてくれたことで当時の自分がずいぶんと慰められた気がします。

★★★★☆

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