「巴里の空の下オムレツのにおいは流れる」 石井好子

戦後まもなく渡ったパリで、下宿先のマダムが作ってくれたバタたっぷりのオムレツ。
レビュの仕事仲間と夜食に食べた熱々のグラティネ―
1950年代の古きよきフランス暮らしと思い出深い料理の数々を軽やかに歌うように綴った名著が、待望の文庫化。

第11回日本エッセイスト・クラブ賞受賞作。

軽やかで美しいお料理エッセイです。

タイトルに惹かれて購入。
90年以上も前に生まれて、パリでシャンソン歌手としてデビュー、活躍された著者によるエッセイでした。
パリやスペイン、ドイツなど海外の話や、おいしい食事の話が綴られていて、一昔前の話だということを差し引いてもどれも新鮮で見たことのない世界ばかりで読んでいてうっとりしました。

当時は日本人が海外で活躍するなんて、旅券も自由に手に入らないということを鑑みても非常に希なことだと思います。
上流階級に生まれた人特有の品の良さや機知に富んだ様が垣間見れて、すこし背筋が伸びるよう。もちろん女性一人海外で活躍するにはかなりの努力と覚悟が必要だったと思いますが、おいしい料理を作って大切な人をもてなして、彼女の文章には悲壮感や苦労感は一切なくて、女性から見ても惚れ惚れする女っぷりを感じました。

特筆すべきは、やはり食べ物のこと。
食べるのが好きという著者が描くだけあって、読んでいて思わず食べたくなる、作りたくなるものばかり。難しい言葉なしに作り方がさらさらっと書かれてあるので、思わず作れそうな気もしてくるし、おなかがすいている時に読むと危険です。
古き良き時代、なんて言葉が脳裏をかすめるくらい、この本からは素敵な時代の香りが漂ってきます。それも、おいしい料理の匂いとともに。こんな生き生きと活躍された日本人女性がかつて海外にいたことを誇りに、長く読み継がれてほしいエッセイでした。

この本には、いろいろなお料理のことを書いたけれど、私のおいしいと思うものは、銀のお盆にのったしゃれた高価な料理ではなく、家庭的な温かい湯気のたつ料理だ。
台所から流れるフライパンにバタがとけ卵がこげてゆく匂い、それは台所で謳われている甘くやさしいシャンソンではないだろうか。  (p240)

★★★★

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