「わたしの神様」 小島慶子

視聴率低迷中のニュース番組「ウィークエンド6」の起死回生をはかるため、
テレビ太陽きっての敏腕プロデューサー藤村は“女子アナ”キャスターのてこ入れに
動いた。産休に入る佐野アリサの後任に起用したのは、全方位の好感度で
不動の人気を誇るミスキャンパス出身の仁和まなみ。

アイドルアナからニュースキャスターへと鮮やかな転身をとげたい彼女は、
権力欲や保身に走る男たちや、敵意むき出しの女たちに晒されやがて
スキャンダルの渦に引き摺り込まれる。描かれることのなかった“女子アナ”たちの
強烈な嫉妬と執着と野心に、ページをめくる手が止まらない。

一気読み必至の極上エンタメ小説。

人の内面とは、なんとおぞましく、あざといんだろう。

私には、ブスの気持ちがわからない。
胸元のマイクを直す音声担当の女を見下ろしながら、まなみは思った。この人だって、もっと顔がきれいだったら、こんな男みたいな裏方仕事、しないで済んだだろうに。
男と張り合うよりも、可愛がられた方が得だ。それが望めない女だけだ、男と対等に働きたいなんて負け惜しみを言うのは。

こんな、冒頭で始まるこの本。
息をつかせぬおもしろさでした。
女子アナが登場するテレビ業界を舞台に、人の欲望と葛藤が渦巻いていて、読み進めるのが辛くもあったけど、これを最後まで書ききった著者の力量にとにかく圧倒されました。しかもこちら、デビュー作だとか。(ちなみに著者は元TBSのアナウンサー)

伝えたいことが凝縮されていて、とても濃いです。
人は、選べないものを持って生まれてきます。美しい容姿だったり、才能だったり、恵まれた家庭環境だったり。それら神様のギフトの影響力は絶大です。
ギフト自体は恵まれたものですが、人間とはおもしろいもので、もともと備わっているものでなく、自分で努力をして獲得していったものこそ認めてもらいたいんですよね。
でも実際に客観的な評価というのは、努力以上に自分では選べない生まれもったものによるところも大きい。容姿だとか性別だとか家柄だとか。そのギャップが、頑張れば頑張る程、もどかしい。

男性、女性ということだけでなく、人によって仕事観1つとってもまるで違う。本書は著者の高い文筆力によって物語の語り部が瞬時に変わり、多くの人の内面が見える。皆、表面で見せてる顔と、内面は随分違う。なかなかにあざとい。そのドロドロした感じがまたリアルなんですよね。
相手とちゃんと話さないと伝わらないし、わからないことが多い。では、話せば伝わるのか?というと、そうではない。なぜなら価値観が違うから、わかりあえないこともある。むしろ、違って当然のものを同じにする必要すらない。
そこが、そのまましっかり書かれているのが大好きです。とても、潔くて。

本書は「女子アナってこういうものじゃない?」というイメージをばっちり具現化していて、実際のところがどうなのかはわからないですが、いかにもありえそうな感じでくらくらしました。自己顕示欲の強さとか、承認欲求の高さとか、痛々しいくらいですが、本書では更に1歩踏み込んだ描写があるのが特徴的です。痛々しさ自体は、消えないんですけど、それでもひたむきさがあるからすこし、救われます。

自分の辛さや痛みというのは、自分以外には正確にはわからない。
それでも、わかってほしいという気持ちも、わかり合えたという幻想も、抱いてしまうんですよね。
ただ、実際にわからないとしても、わかろうとしてくれる人がいてくれることが何より大きい。

さらに恋愛要素から子育てのことまで、本当に濃くさまざまなものが練りこまれていて、読み終わってしばらくは言葉にできないくらい。
読めて、ものすごくよかったです。最後のページがとくに好き。おすすめです。

いずれにしても人が見たがるものに自分を寄せていく作業は、満たされている人には必要ないんじゃないかな。
テレビみたいないろんなことを言われる場所にわざわざ出て行くなんて、ほんとに幸せな女の子なら、そんなことしないですよ。そういう意味では、女子アナって自分と折り合いがつかない人たちの集団なのかなって気もします。 (p131)

★★★★☆

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