「ワンダフル・ワールド」 村山由佳

世界はこんなにも美しく、かぐわしい――運命の出会いを彩る香りの物語。
かつての恋人との再会で芽生えた新たな感情、「愛人」という言葉では割り切れない関係、久しぶりの恋を捨てても守りたいもの

――普通の恋愛とは呼べない。でも混じり気ない愛情と絶対的な安心感を与えてくれる存在を、特別な香りとともに描く全五篇。
もうときめきだけでは満たされない大人に贈る、究極の恋愛小説。

白でも、黒でもないものは、ある。

楽しみにしていた村山さんの新刊です。
早速発売日に買いました。
すべての章に香りが漂う、喪失と大人の恋が入り混じった5つの短編集でした。

ファンの間では、デビュー作「天使の卵」などの純心な作品を生み出す白村山と、「ダブル・ファンタジー」のような官能的で深みのある作品を描き出す黒村山とに呼び名が分かれるところですが、もはや今はそういった区分けすら不要なものだ、と感じさせるくらい白も黒もを内包した作品でした。

酸いも甘いも知り尽くした大人だからこそ書ける魅力がまたたまらないです。いくつになっても恋に生きる純真さを残しつつ、年齢とともに変化していくものが作品には映し出されていて、これだからこそ追いかけるのをやめられない、と思わされます。

さて、肝心の作品ですが、描かれている大人の恋は、とても現実的でした。
ある程度生きているとそれなりに経験を積むから、夢を見にくくなっている部分がある。それと同時に、だからこそ焦がれるように夢を見たい気持ちもあって。
ふと気付けばしっかり予防線を張っていたり、冷静に自分の手綱を握りしめていたりするのを自覚すると、自分も大人になったものだ、と少し寂しさを覚えます。一方で、それが異性に対してでなくても純心で真っ直ぐ想いを自分の中に発見すると、とてつもなく嬉しい。

大人になると既婚者率が高くなるとはいえ、不倫という呼び名を自覚することなく既婚者と関係を持つ人が多いことが、なんだか残念なような、それでいてすごく自然なような、苦い気持ちになります。
もちろん、しっかりわかっている、と不倫をしている人たちは言うけれど、甘い言葉で誘う男性も、妻の存在に蓋をして誘いに乗る女性も、同罪ですよね。なにも、わかってない。
とはいえ、私も感性の部分では、まあそんなこともあるよね、と自然に受け入れてしまいそうだからこそ、理性の部分で必要以上に自分を諫めてるのかもしれませんが。

読んでいて感じたのは、人は必ず失うもので、失われようとしているものを止めることはできない、ということ。それは命にしかり、恋心にしかり。
いつかはすべてが失われるのだから、その前にきちんと大切にしないといけない、ですね。

老猫の話は、私も昔大事にしていたハムスターを、それこそ全身の毛が抜けるくらいまで長く生きた子が息を引き取る最期の瞬間を、自分の両手の上で見たという経験を思い出させるのと同時に、うちの愛猫の最期を想像せずにはいられませんでした。

何かあるたんびに他人に流されたり、手近なところに泣きついたりするんじゃなくて、いいかげんに自分で自分の人生引き受けて、自力で幸せになる努力をして下さい。以上。  (p71)

★★★★

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