「華岡青洲の妻」 有吉佐和子

世界最初の全身麻酔による乳癌手術に成功し、漢方から蘭医学への過渡期に新時代を開いた紀州の外科医華岡青洲。

その不朽の業績の陰には、麻酔剤「通仙散」を完成させるために進んで自らを人体実験に捧げた妻と母とがあった――美談の裏にくりひろげられる、青洲の愛を争う二人の女の激越な葛藤を、封建社会における「家」と女とのつながりの中で浮彫りにした女流文学賞受賞の力作。

女は、なんて業が深いんでしょう。

世界に先立つこと40年弱、1804年の日本に世界で初めて全身麻酔術を成功させた人がいたことを、この本で初めて知りました。注目すべきは手術の腕ではなく、麻酔を作り上げたという功績。
当然ながらマッドサイエンティストのように人体実験を繰り返してたどり着いたわけでないにせよ、最終的には人間での臨床は欠かせない。
そこで、母と妻が自らその実験台にと手を上げた。そして、臨床を経てついに手術は成功。

どう考えても美談として語られる内容。
実際に、きっと美談として語り継がれてきたんだと思います。それを、まさかこんなにも深い女性の業を見せる作品に描くとは、相変わらず有吉さんの底知れなさに慄きました。

美しいだけの話では終わらせない、というのは、
美しいだけのものなんてないんだ、という真実を伝えようとする潔いまでの著者の覚悟を映し出しているように感じます。
よく言う嫁と姑の確執ですが、そもそも同じ舞台で戦うことができないこの両者に、決着なんてつけようがない。

愛を交わせる妻が相手では姑は分が悪いけれど、
我が子を生み出したという深い繋がりには、妻は太刀打ちできない。
どちらにとっても唯一無二で大切な存在だから、不毛だとわかっていても「その人にとって自分が特別である」と思いたいし、そう認められたいんでしょうね。
気持ちは、わからないでもないです。
でもその想いの強さというのは、渦中の人には見えなくとも、端から見ているとなかなか壮絶でしょうね。
とはいえ、麻酔の動物実験を繰り返す青州もまた、違った狂気を感じたものですが。

華岡青州の功績はもちろん日本が誇る素晴らしいものですが、小説として日本の医療界の一幕を世に知らしめた著者の功績も素晴らしいものだと思います。
本当に、いいものはいつまで経っても色褪せない。

★★★★☆

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