「扉守」 光原百合

古い井戸から溢れだす水は“雁木亭”前の小路を水路に変え、月光に照らされ小舟が漕ぎ来る。この町に戻れなかった魂は懐かしき町と人を巡り夜明けに浄土へ旅立つ(「帰去来の井戸」)。

瀬戸の海と山に囲まれた町でおこる小さな奇跡。
柔らかな方言や日本の情景に心温まる幻想的な七篇。第一回広島本大賞受賞作。

人々と幻想がともに生きる世界が、ここに。

不思議な力に満ちた、瀬戸内海にほど近い山に囲まれた町、潮ノ道。
小さな奇跡に溢れるこの町は、人間でないものも呼び寄せたり、本来力を持たないものにも力を与える。
読んでいるだけで、素敵な町だなと心底惚れこんでしまうような町でした。

引き寄せられるように集まってくる個性的な面々もいいですね。
もちろん、一番の主軸はこの連作短編集すべてに登場する、お寺の住職、了斎でしょうか。気のおけないおじいさんながら、不思議な町にぴったりな人物です。もはや何が普通なのかわからなくなってしまうくらい、気付けばこの町の空気に馴染んできます。

どこか夢のような、美しい情景がまた特徴的です。
見えない海の上を渡る船や、四季折々を映し出す動く絵画、そして短編のタイトルもまたセンスがよくて美しい。
「桜絵師」
「写想家」
「旅の編み人」など…
思わず、読んでみたくなりませんか?

一番好きなのは「ピアニシモより小さな祈り」
きっと自分の心の底に、想いが形になってほしい、誰かにきちんと届いてほしい、という気持ちがあるのでしょうね。
人を、物を大切にして、それに応えてくれる関係が築ける。そのことがどれだけ素晴らしいことか改めて感じさせる1冊でした。

初読みの作家さんですが、読めてよかったです。
静かで美しい物語でした。

この町はあんたのいうとおり、大地を流れる力が特に強く働いている。いろいろなモノがそれに引きつけられて集まってくる。それだけに、つりあいを保つ力も強い。あんたが万物のつりあいを乱す存在だと認められたら、排除する方向にそれが働く。 (p113)

★★★★

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1.光原百合「扉守 潮ノ道の旅人」読みました♪

【内容情報】(「BOOK」データベースより) 瀬戸の海と山に囲まれた懐かしいまち・潮ノ道にはちいさな奇跡があふれている。こころ優しい人間たちとやんちゃな客人が大活躍…


2.『扉守 潮ノ道の旅人』光原百合著(文藝春秋)

 本屋大賞が発表された。一位は百田尚樹さんの『海賊と呼ばれた男』。面白そうではあるけど、2011年の本屋大賞の第四位、『錨を上げよ』で苦い思いもしているしなあ。四位の ...


「扉守」 光原百合” への4件のコメント

  1. yocoさん、ご無沙汰しております!
    またもやブログを放置状態にしてしまいました…^^;

    『扉守』すごく素敵なお話ですよね~!!
    タイトルのセンスが良いし、表紙絵も美しくて思わず手に取りたくなりますよね。
    広島の尾道を舞台にしたとのことだったので、一度で良いから訪れてみたくて、
    色々と尾道を調べたりしました(笑)近いうちに必ず行きたい><

    光原さんの作品の中では、特に『銀の犬』というファンタジーがたまらなく好きで。
    ケルト民話をベースに描かれた作品なんですが、
    もうとにかく優しくて、切なくて、何度も何度も繰り返し読んでいます。。

    この作家さんの作品に共通するのは、
    ふわりと包み込んでくれるような優しい描写で、いつも心が洗われます(*´▽`*)

  2. nanacoさん、こんにちは^^
    私も新年度でいろいろと力尽きて、ブログ放置気味です(;w;
    なかなか私生活でゆとりがないと手がとどかないですね。。。(;w;

    「扉守」は、ほんっと素敵なお話でした!
    こんな素敵な町のモデルが実際にあるというのが、すごく嬉しいですよね。
    九州は足を踏み入れたことがない地ですが、私も行ってみたい。
    光原さんは私もこの作品が初読みでしたが、ケルト民話をベースにした話なんて、絶対におもしろそう・・・探してみます・・!
    まだまだこんな読んだことのない素敵な作家さんがいるなんて、これだから読書はやめられないですね。

    最近ちょっと心がささくれてるので(笑)、癒される本を積極的に探してきたいと思います!(*´▽`*)笑

  3. yocoさん
    こちらにもTBさせていただきました。
    過去に、ぼくのブログで「扉守」のアクセス数が急増したことがあります。
    なぜかと不思議に思って調べてみたら、どうやら、地方局でラジオドラマ化されたようです。
    その後、ラジオドラマの再放送があった時にも、アクセス数がやはり増えました。
    どんな形でも構わないので、少しでも多くの人に『扉守』の存在を知ってもらって、光原さんの描くステキな世界を楽しんでほしいと思います。

  4. touchi3442さん、こちらにもTBコメントありがとうございます^^
    私、この小説が光原さんの初読みなんですが、言葉選びも雰囲気も、何もかもが大好きです。他の作品読むのが今から楽しみで仕方ないんですよ。
    こちら、地方局でラジオドラマ化されてたんですね。
    一度聴いたらきっと惚れてしまう人、多いんでしょうね。
    検索したくなる人の気持ちもわかる気がします。

    本当にもっともっとたくさんの人に知ってもらいたいし、こんなに素敵な世界があるんだよって教えてまわりたいくらい。この本もお友達にお勧めしてもらったんですが、こんな風にして素敵な作品に出会える喜びっていったら最高の幸せです。

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