「完全なる首長竜の日」 乾 緑郎

「SCインターフェイス」、それは植物人間になった人との対話も可能にする先進的な医療技術だ。
自殺未遂をし、ずっと目を覚まさない弟とセンシング(意思の疎通)を繰り返す女性漫画家、和淳美が触れた謎と仕掛けに満ちた物語。


実は、このファンタジーなタイトルや表紙から宮部みゆきの「ブレイブストーリー」のようなものを想像していたら、まったく違いました。
ミステリーであり、SFであり、私にとってはホラーでした。

これ、ものすごく怖いですよ。読了後時間が経てば経つほどその怖さが身に染みます。
それもきっと、この作者の筆力によるものなんでしょうね。
タイトル、物語の書き出し、情景、どれもに惹かれました。
病院の無機質さと、南国の鮮やかさのコントラストが刺激的で、それでいて幻想的。

繰り返し出てくる青い海と赤い旗の場面もそうですが、「南国の澄み切った青い空をバックに、蜘蛛の巣が影絵のように浮かんでいる」という一文がすごく好き。綺麗ですよね、描写が。
ゆられゆられつ、現実と夢とを行き来する様子に、心が不安定になりました。
自分が地面だと思ってしっかり立っているつもりだったものが、こんなにも不確かなものだったなんて、という不安。

書かれているテーマは決して真新しいものではないのに、きっとその筆力によるものなんでしょうね。
「胡蝶の夢」などの説話がとても現実味を帯びて感じました。
読了感は心地よくないけれど、また乾さんの世界に浸りたい。そんな風に思わされる1冊でした。

★★★★

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