「肩ごしの恋人」 唯川恵

欲しいものは欲しい、結婚3回目、自称鮫科の女「るり子」。
仕事も恋にものめりこめないクールな理屈屋「萌」。性格も考え方も正反対だけど二人は親友同士、幼なじみの27歳。
この対照的な二人が恋と友情を通してそれぞれに模索する“幸せ”のかたちとは―。
女の本音と日常をリアルに写して痛快、貪欲にひたむきに生きる姿が爽快。
圧倒的な共感を集めた直木賞受賞作。

恋愛小説の旗手が描く爽快な1冊です。

さらりと爽やかな読み心地。フツーの枠に囚われない清々しさに、読んでいてすっきりします。直木賞受賞作でもあります。

幸せに貪欲な美女るり子は結婚3回目。
腐れ縁の萌は、気付くとるり子の騎士役。幸せには慎重。
おもしろいくらいに正反対の二人。

本当は、わがままを通す方が我慢をするよりずっと難しい。楽して相手に好かれようとして聞き分けの良い女でいるよりも、本当に欲しいものを欲しいと堂々と宣言する、幸せを手に入れるためにどこまでも貪欲になるとするるり子は、当然ながら女性からはハブられます。
人間関係を考えてちょっと謙虚に、なんてこともしないし、欲しいものは他人の物だって取るくらいだから。
もちろんるり子は、女性に嫌われるのなんて、全く気にしない。
呆れるくらいに欲望に純粋で、いっそここまでくると、清々しいです。付き合いたい人種かと言われるとそうではないので、腐れ縁とはいえ萌はすごいと心から思うのですが。

そんなるり子ですが、彼女の発言で大好きなのが1つ。
あんまりにも世の中を舐めてるような態度に

「こう言っちゃ何だけど、特殊な才能があるわけじゃないし、安定した会社に勤めているわけでもなし、年はとってゆくばかりで、自慢のその美貌だっていつか『昔は綺麗だったんでしょうねえ』ってことになっちゃうのよ。周りからどんどん男がいなくなって、あんたのことだから女友達もいないだろうし、結局は孤独に生きることになるの。老後はどうするの、路頭に迷うんじゃないの」

と、至極まっとうな忠告をしてくれる人がいた。

それに対して、私がそんな風になるわけないじゃない。ずっと男にもてて、お金持ちになって幸せに暮らすの。なんて答えるので、単なるバカかと思いきや、
るり子は、不幸になることを考えるのは現実で、幸せになることを考えるのは幻想だなんてことは絶対にない、と断言する。

「ものすごく頭がよくて仕事がばりばりにできた子が、仕事に没頭しすぎて精神障害起こしたの。今も仕事に復帰できないままよ。大企業に就職して一生安泰って思ったら、会社が倒産したとかリストラにあったってことも。玉の輿と言われてた子が、ダンナに事故で先立たれちゃってパートで必死に子育てしていることも。
先のことなんか誰にもわからない。幻想って言うなら、両方とも幻想でしょう。だったら幸福な方を考えていたいじゃない。その方がずっと楽しく生きられるじゃない」

と述べ、

「私は自分が幸せになれないなんてどうしても思えないの。だって私、いつだって幸せになるために一生懸命だもの。人生を投げたりしないもの。頑張ってるもの。そんな私が、幸せになれないわけがないじゃない」

と答える。
この最後の台詞が大好きです。
手に職をつけるでもなし、いつまでも若くないのに随分世の中を舐めている…と思いながらも、人生に諦めない彼女のひたむきさが、すごく眩しく見えました。
自分の人生に責任を持つなら、それがどんな生き方であれ、いい人生だと思います。

一方、幸が薄い感じの萌だって、素晴らしい。恋に臆病で、タイミングも逃しやすい。そんな彼女の下した決断と変化はこの1冊の読みどころだと思います。
女性だけでなく、これまた眩しい崇くんという男の子の存在がまたいいんですよね。
彼の決断も、すごくいい。
いわゆる「幸せ」の形は人それぞれですが、何も考えずに世間の大多数が手にしているものを幸せだと思いこむよりも、自分で自分の幸せを見つけ、きちんと選び、決めていく姿勢が、本当に素敵でした。
おすすめの1冊です。

謝るなんて、いちばん相手を傷つける。恋に、どちらか片方が悪いなんてことはない。どちらも正しいか、どちらも間違っているか、そのふたつしかない。  (p310)

★★★★☆

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