「二十四の瞳」 壺井栄

海辺の寒村に、女子師範学校出の大石先生が赴任してきた。担当する分教場の小学一年生は十二人。
新米先生は、様々な家庭の事情を抱えた生徒たちを慈愛に満ちた眼差しで導き、時と場所を越えた師弟関係を築いていく。
やがて戦争、そして敗戦。自らも苦渋の季節を経て、四十になった先生は、再び分教場の教壇に立ち、昔の教え子の子どもたちと出会う。
真の師弟愛を描いた不朽の名作。

不朽の名作です。

とても有名なタイトル。
不朽の名作と謳われていながら、未読でした。
時代は昭和初期。自立した芯のある女性と無垢な子どもたちの交流を描いた物語、だと思っていました。

物語が進むにつれ、忍び寄る戦争の影に、この時代の空気を感じました。貧しくとも明るい、いたずらや意地悪さえも振り返れば懐かしく思えるような毎日が、「戦争」というものによって失われていく。時代の理不尽さを前に、怒るでもなければ、叫ぶでもなく、大事な教え子を慈しむ眼差しに、なんだか泣きたくなりました。

教え子たちを戦争に取られてしまうのも切ないけれど、平和な時代を知らない自分の息子が、戦地に行きたい、名誉の戦死を誇らしいと思うのを目にするのは、どれだけ辛いことでしょうか。
自らの命を大事にするという当たり前の価値観さえ揺らがせる、戦争というものが怖くなります。むしろ、自分を、相手を大事にするという価値観を持ち続けていては、戦争はできないのでしょうね。

戦争は悲愴。それでいて、本書は暗くない。
あとがきには、「壺井さんの文学にはえくぼがあった」と書かれているけれど、本当にそのとおりで、こんな辛い時代においても、明るさを失わない、人の温かみのようなものがある。これが、戦争を糾弾するような物語であったなら、こんなにも長く人々の間で読み継がれることはなかったと思います。
戦争はよくない。
それはもちろんのことですが、そんな時代を逞しくも生き抜いてきた私たちの祖先に想いを馳せることができる、そんな1冊でした。

★★★★

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