「白蝶花」 宮木あや子

傾いた家のために財閥の妾となった泉美、貧しさ故に芸妓として売られた姉妹の菊代と雛代、奉公先で書生の子どもを身籠る千恵子、豪奢な屋敷で愛に飢える県知事令嬢の和江。
人生を選びとることも叶わず、女は明日死ぬかも判らぬ男を想うしかなかった時代──戦前から戦後の不自由さを吸い上げ、荒野の日本で美しく野性的に生を全うした彼女たちが咲かす、ドラマティックな恋の花。

女性が今よりも生きにくかった時代

読む度に惹きこまれる宮木さんの小説。
大正から戦後にかけてを強く、逞しく生き抜いた女性を描いたこの短編集は、読み進めていくにつれ連作短編小説だと気付きます。点と点が線になる。

解説は三浦しをんさんが書かれているのですが、これがまた素晴らしく小説の魅力を伝えていて、ページを閉じるその瞬間まで、むしろ読み終えた後も余韻が残り、幸せでした。

何をもって幸福なのか、不幸なのか。
理不尽なことがない人生なんてない中で、登場する女性たちに、幸せなことも、辛いことも訪れて、それはこの小説に限らず、現実に生きている私たちも同じこと。
全体を通して際立つのは、愛する男性の存在。
そして、女性同士の深い繋がり。

愛する人に出会えたこと、そのこと自体は、女性としてとても幸せなことだと思います。
一方で、その人と離れなくてはいけないことは、どれ程魂がちぎれる痛みでしょうか。まして、戦地に赴く、命が助かるかわからない、それをどうすることもできない無力さは、想像するだけでも居た堪れない。

三浦さんも解説で書かれていましたが、男性同士の友情とはまた違った、女性同士の友情、というのもあるんですよね。
表面上は分かり合えなくても、深いところで繋がっていること。宮木さんの描く女性が好きです。

そして、辛い出来事が起こりながらも、花の名前がつけられたこの短編集は、美しさを置き去りにしない。

花の匂いに溜息が出た。すぐ外に見える沈丁花が甘酸っぱい香りを部屋の中まで漂わせ、その横の寒緋桜は毒々しいほど鮮やかに花を垂れている。柊南天がひよこみたいに黄色い花をぽつぽつと星のように咲かせ、地面の近くを見れば、鈴蘭水仙が申し訳なさそうに小さな白い花を付けていた。

と、まだまだ続けたくなってしまうけれど、なんて、美しく、素敵な目線を持って世界を見ているんだと思いませんか。

泥に汚れても凛とした花のような、誇り高い美しさを見せてくれるから、泣きたくなる。日本ではもう戦争をしていないけれど、今も世界で戦争をしている国の女性たちは、同じように愛する人を送り出している。
そう思うと、またさらに泣きたくなるのでした。

もう半世紀以上も前のことなのに、記憶は溢れる水のようにその便箋の上に踊る。 (p92)

★★★★

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1.『白蝶花』/宮木あや子 ◎

宮木あや子さんの、閉塞された世界の女性の、狂おしいまでの生き様を強く描く美しい物語は、デビュー作『花宵道中』でも『雨の塔』でも、ままならぬ想いを氾濫させつつ、静かに満ち…


「白蝶花」 宮木あや子” への2件のコメント

  1. yocoさん、こんばんは(^^)。
    「愛」のために、「死」ではなく「生」を選ぶ、彼女たちのその凛とした強さが本当に美しかったです!
    文庫の解説を三浦しをんさんが書いてらっしゃるんですね。解説だけでも読みたいかも(笑)。
    「閉塞された世界での、ままならぬ想い」に支えられて懸命に生きる女性たちの、それぞれを思いあう強さが印象的な物語でした。

  2. 水無月さん、こんばんは~^^
    そうなんです、もっと自暴自棄になったり、諦めたりしてもおかしくないくらいなのに、最後まで生き抜こうとする彼女たちが本当に格好よくて。それに美しくて、なんて世界を描くんだ・・と再び思いました。
    解説は、ものすっごくよかったですよ!本屋さんで見かけたらぜひ!
    三浦しをんさんもこの作品に惚れ込んでるのがすごく伝わるし、解説で更にこの作品の魅力を引き出しているというか。。。素敵な解説に出会うと、ああ解説って本当に大事と思います。

    >「閉塞された世界での、ままならぬ想い」に支えられて懸命に生きる女性たちの、それぞれを思いあう強さが印象的な物語でした。
    本当にまさに・・・!思い返しても素敵な物語でした。

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