「蜩ノ記」 葉室 麟

家老により、切腹と引き替えに向山村に幽閉中の元郡奉行戸田秋谷の元へ遣わされた檀野庄三郎。

秋谷は七年前、前藩主の側室との密通の廉で家譜編纂と十年後の切腹を命じられていた。

だが、秋谷の清廉さに触るうち、無実を信じるようになり…。

凛烈たる覚悟と矜持を描く感涙の時代小説。

第146回直木賞受賞作。


時は、江戸時代。
前藩主の側室との密通の廉で家譜編纂と10年後の切腹を命じられた秋谷が暮らすのは、九州の山間の村。
そこに遣わされた庄三郎の目を通して感じる清逸な世界観と美しい自然描写に心が洗われました。

10年後の切腹の命、すなわち余命は10年。
それも、病で命を落とすのではなく、自らの手で愛する家族のいる世界を後にするのは想像を絶する痛みでしょう。
その葛藤が書かれているのかと思いきや、主人公は清廉な人柄で、心静かに穏やかに、確固たる信念を持って生きていました。

限られた生をどのように生きていくか、人間らしく、親らしく、夫らしく生きるとはどういうことか、常に心に抱きながら生きているからか、主人公の人との関わりのなんと深くやさしいことか。
自分の生き方について改めて考えさせられました。

ひとは心の目指すところに向かって生きている。
心の向かうところが志であり、それが果たされるのであれば、命を絶たれることも恐ろしくはない。
私もいつか、そんな風に思えるんだろうか。

疑いは、疑う心があって生じるものだ。弁明しても心を変えることはできぬ。心を変えることができるのは、心をもってだけだ。 (p154)

★★★★☆

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