「小さいおうち」 中島 京子

今はない家と人々の、忘れがたい日々の物語。
昭和初期東京、戦争の影濃くなる中での家庭の風景や人々の心情。

ある女中回想録に秘めた思いと意外な結末が胸を衝く。

第143回 直木賞受賞作。

戦前から戦中にかけて、ちいさな赤い屋根の洋館で女中奉公をしていたタキさん。
あまり馴染みのない「女中」というキーワード。
徒弟制度・丁稚奉公等と同様に今は風化してしまったものですが、情のある主従関係がいいですね。
現代と過去を少しずつ行き来しながら、次第に物語は古き良き時代へ舞台を移します。

物語の最初でも出てくるエピソードですが、「優れた女中は、主人が心の弱さから火にくべかねているものを、何も言われなくても自分の判断で火にくべて、そして叱られたら、わたしが悪うございました、と言う女中なんだ」という先生の台詞がずしりと残ります。

どこか遠い世界の物語を読んでいるようでいて、DNAが懐かしがっているような、不思議な不思議な読了感でした。
お年寄りが当時の時代を偲ぶ気持ちが、すこしわかるような気がします。

男女相愛の道程を辿るのは人類の第一の本道であるにちがいない、けれどもなお第二の路はあるはずだ。そしてまた同時に第三の路も許されていいはずだ。
相愛の人を得ずして寂しいながらも何か力いっぱい仕事をしていゆく人たちのためにこの路はやはり開かれてあるわけだ。第一の路をゆく人も第二の路をゆく人も第三の路をゆく人も、各々その道を一心に辿ってそれによって。
己を生かし切り善く美しく成長させて宇宙へ何か献げものをしたい気持で歩めばいいのだ、この三つの形をとって人間は生涯を送るより方法はないのだと思う。
(p181)

★★★★

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