「私は忘れない」 有吉 佐和子

日本のめざましい経済成長の陰に、電信電話もなく台風の被害も報道されない僻地。
スターの座を夢みながらチャンスを逃した万里子は、衝動的に訪れた離島、黒島で厳しい自然の中でたくましく運命を切り開く人々の純朴な姿に心を打たれる。


昭和34年、著者が20代の頃に書かれた本書は、現在絶版になっています。
幼少期の主人公をはじめ、戦争を体験している人たちが生活している時代です。著者が実際に離島に足を踏み入れ取材をしてできた本書は、そんな時代に確かに存在していた離島の様子をありありと写し出しています。

自然豊かで、まるで南の楽園のような一面も持ちつつ、死者を出すほどの台風の被害や、医師がおらず急病になっても助けを呼ぶ通信手段がないこと、4日一度しか本土から船がこないことなど、同じ日本でありながらまるで違う。日本語だけど、言葉も少しだけ違う。
「さようなら」を、「あしたよオ」「あしたよなア」と言うのが好き。

スピードが速くて、喧騒に巻き込まれやすい都会において、こんな暮らしがあるということを、忘れちゃいけない。それは、ベルトコンベアーに乗せられてするすると時間を空費してしまいがちな自分へブレーキをかけてくれる。今はもうこんな離島はないかもしれない。
それでも自分の心に、何かしらブレーキになるものを持っておくことは、都会でただ消費されて生きることを防ぐ大事な鍵になるように思いました。

ブレーキ。
私たちの世代に、一番欠けているのは、これだった、と私は気がつきました。叱ったり、躾たり、自信をもって導いたりする大人が、少なすぎるからです。 (p347)

★★★☆

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