周囲が新しい門出に沸く春、思いがけず家業のクリーニング店を継ぐことになった大学卒業間近の新井和也。
不慣れな集荷作業で預かった衣類から、数々の謎が生まれていく。同じ商店街の喫茶店・ロッキーで働く沢田直之、アイロン職人・シゲさんなど周囲の人に助けられながら失敗を重ねつつ成長していく和也。
商店街の四季と共に、人々の温かさを爽やかに描く、青春ミステリの決定版。
読んでいて、心に明かりが灯るような1冊でした。
商店街のクリーニング屋さんを舞台にした、日常ミステリーです。
著者が、“1話限りで去ってしまう使い捨ての人物や「死ねば事件だ」のような話は書きたくなかった” と発言されていたとあとがきにあるように、描かれる人物や日々のできごとに愛情が込められているのがわかります。
刊行はこちらの方が先ですが、和菓子のアンでお馴染みのあの人も登場します。それは、思いがけず親しい友人に再会したかのような嬉しさで。
私、坂木さんの描く登場人物が本当に大好きで、誰も彼もがすごく魅力的なんです。
「クリーニング屋」という仕事に少しずつ誇りを持って取り組む主人公も大好きだし、義理人情に厚いプロ職人のシゲさんも好き。そして共通するのはみんなとても優しいというところ。
著者が周りに愛されて育って、それを感謝する気持ちを常に持っていることが伝わってきて、胸が本当に温かくなります。
さて、ミステリーとしては顧客の個人情報が詰まった洋服等を集荷しながら、謎を解いていくスタイル。
クリーニング関連の豆知識も知ることができておもしろかったです。
クリーニングから戻ってきた服のビニール袋は外すこと、というのは知っていましたが、汚れたらすぐに洗えばいい、という素材ばかりでないこと等知らなかったこともたくさん。
和菓子のアンでは全国のお取り寄せが登場して楽しませてくれましたが、今回は映画が作中でいくつも紹介されます。
物語の本筋とは違うけれど、読み手には嬉しいおまけをつけてくれるのもすごく楽しめる要因の1つです。
故郷らしい故郷がない私は、こういう生まれ育った町、とか、商店街の顔なじみの関係、とかすごく憧れます。
きっと煩わしいこともあるんでしょうけれど、顔の見える関係が温かいですよね。
読み終わってタイトルを見ると、改めていいタイトルだなぁと思います。次作も、とても楽しみです。
愛されていたという記憶さえあれば、人は一人になっても生きていける。大切にされた命だとわかっていれば、暗い道で迷うこともない。わかるか? (p102)
★★★★★