「インシテミル」 米澤 穂信

「ある人文化学的実験の被験者になる」ことで、時給11万2千円。
破格の条件をもとに集まった12名の男女。
閉ざされた地下の密室で、与えられたのは、より多くの報酬を巡って参加者同士が殺しあう犯人当てゲームだった。


軽快でいて、謎に包まれた物語は、すごく楽しかったです。
金田一少年の事件簿と戯言シリーズを合わせたような、バトルロワイアルとライアーゲームを掛け合わせたような、そんな作品。
米澤さんの、本人がまず楽しんでるようなこの作風、私の好みです。
随所で情報を整理して提示してくれるので、謎解きも一緒に楽しめました。

12人と人数は多いものの、登場人物の個性も比較的掴みやすかったように思います。中でも須和名のキャラは一際立ってますね。
どうやら続編にも登場するようで、ちょっと嬉しい。
彼女の本気というのを見てみたい。

それから、物語の構成も好き。
読み終わってから読み返すと、パズルのピースがはまる感覚。
細かいところまで気にかけてるのかと思いきや、結構ざっくりしたところもあって、そのアンバランスな感じがまた魅力なのかも。
担任の名前とか、あの適当な感じもいいですよね。

クローズドサークルはどれもそうかもしれないけど、この非現実的な世界が楽しい。
少し怖いんだけど、だからこそ続きが気になる。
一気に読める作品でした。

★★★★

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「完全なる首長竜の日」 乾 緑郎

「SCインターフェイス」、それは植物人間になった人との対話も可能にする先進的な医療技術だ。
自殺未遂をし、ずっと目を覚まさない弟とセンシング(意思の疎通)を繰り返す女性漫画家、和淳美が触れた謎と仕掛けに満ちた物語。


実は、このファンタジーなタイトルや表紙から宮部みゆきの「ブレイブストーリー」のようなものを想像していたら、まったく違いました。
ミステリーであり、SFであり、私にとってはホラーでした。

これ、ものすごく怖いですよ。読了後時間が経てば経つほどその怖さが身に染みます。
それもきっと、この作者の筆力によるものなんでしょうね。
タイトル、物語の書き出し、情景、どれもに惹かれました。
病院の無機質さと、南国の鮮やかさのコントラストが刺激的で、それでいて幻想的。

繰り返し出てくる青い海と赤い旗の場面もそうですが、「南国の澄み切った青い空をバックに、蜘蛛の巣が影絵のように浮かんでいる」という一文がすごく好き。綺麗ですよね、描写が。
ゆられゆられつ、現実と夢とを行き来する様子に、心が不安定になりました。
自分が地面だと思ってしっかり立っているつもりだったものが、こんなにも不確かなものだったなんて、という不安。

書かれているテーマは決して真新しいものではないのに、きっとその筆力によるものなんでしょうね。
「胡蝶の夢」などの説話がとても現実味を帯びて感じました。
読了感は心地よくないけれど、また乾さんの世界に浸りたい。そんな風に思わされる1冊でした。

★★★★

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「カラスの親指」 道尾 秀介

人生に敗れ、詐欺を生業として生きる中年二人組。
ある日、彼らの生活に一人の少女が舞い込む。やがて同居人は増え、「他人同士」の奇妙な生活が始まったが、残酷な過去は彼らを離さない。
各々の人生を懸け、彼らが企てた大計画とは?
「ど派手なペテンを仕掛けてやろうぜ!」

あー おもしろかった!
ハラハラドキドキする場面もあったし、最後のどんでん返しにすっきりやられて、読了感も最高。 続きを読む

「謎解きはディナーのあとで 2」 東川 篤哉

令嬢刑事麗子と風祭警部の前に立ちはだかる事件の数々。
「二人の仲は、ひょっとして進展するのでは?」
「風祭警部は、活躍できるのか?」

読みどころ満載な上に、ラストにはとんでもない展開が待っていた!?


本屋大賞に釣られて1巻目を読んだときに、2巻目を読むことはないだろうと思っていたのですが縁あって読了。
2巻目の方がずっとおもしろかったです。
思い返せば、1巻目は本屋大賞ということもあって、かなり期待してハードル高めで読んでいた気がします。

本書の何が面白いって、やはり執事とお嬢様の掛け合い。
執事景山の人をおちょくってるとしか思えない態度と、紳士なところや時たま見せる困惑顔とのギャップがたまらない。
風祭の見事な空回りっぷりも、見ていて痛快。
とにかく、キャラがいいですよね。

この小説を好きになれるかどうかは、キャラが好きになれるかどうかにかかっているのかもしれません。
というのも、ミステリーとしては相変わらずいまいちだから。
あまり現実的じゃなくしっくりこないものが多いから、謎が解けてもモヤモヤが消えない。それがすごく残念。

それでも、笑いのツボを上手に刺激してくれるので笑いっぱなしで、すごく楽しめた1冊でした。

「失礼ながら、お嬢様」影山は麗子の目をまっすぐに見据えて、「お嬢様は冗談をおっしゃっているのでございますか」と真面目な質問。
そして影山はキョトンとする麗子に対して、かしこまった口調で言い放った。
「もしそうだとすれば『ウケる~』でございます」   (p90)

★★★★

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「顔 Face」 横山 秀夫

“ふけいさんになる”
小さい頃からの夢を叶えた瑞穂。
だが、警察社会で投げられる言葉は冷たい ―「だから女は使えねぇ!」
それでも、似顔絵婦警として犯罪者の心の闇を追いかけていく。

さすがは横山さんというくらい、ミステリーとしておもしろい。
犯人は誰だ、ヒントはないか、と主人公と一緒に頭を悩ませる。
そこに人間劇が入ってくるのだけど、この人間劇の方がいまいちでした。

単純に主人公が好きになれなかっただけなのですが。
「女は嫁に行けばいいが、男はそうはいかない」という認識の人間が大半の県警は、働く女性にとって居心地のいい場所とは言えないでしょうね。
女性に対する扱いの酷さに腹が立ったり、結局甘さが抜けない主人公に憤ったり、登場する女性一人一人に思うところもありました。

私だったらどうするだろう、と気付くと考えてしまう場面がいくつもでてきました。
でも実際は、女性だから、とか、男性だから、とかではないんですよね。
そんなことにも本筋で触れているのがいい。

登場人物では、いい意味で自然体でいられる板垣が素敵。
主人公を好きになれなかった理由は、あまりにもギラギラした正義感ゆえかもしれない。そのくせ、弱くて甘さの残るところとか。少し、もどかしかったのもあると思います。
実話じゃなくても警察のドロドロしたところ、女性同士のギスギスしたところは、見ていてあまりいい気分じゃないですね。それでも、ミステリーとしてはやはり読みどころ満載でした。

★★★☆

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「向日葵の咲かない夏」 道尾 秀介

きぃ、きぃ―――。
学校を休んだS君に届け物をしに行った僕。
S君の家の軒先には鮮やかな向日葵と向き合うように、首の伸びたS君が吊るされていた。
「僕殺されたんだ」
生まれ変わったS君の言葉に、僕は犯人捜しを始めた。 続きを読む

「謎解きはディナーのあとで」 東川 篤哉

本屋大賞受賞作。
賞を取ったり、話題になったりした本は、実は手に取るのを少し躊躇います。
なぜなら、期待値が自然と上がってしまうから。落胆するのが嫌なんです。
今回もこの本は地雷かなと思っていたのですが、親戚の家にあったので読んでみました。

お嬢様警察官と毒舌執事による6つの事件解決集。
「失礼ながら、お嬢様はアホでいらっしゃいますか」という執事の台詞、結構好きです。
むしろ、この執事のキャラが好きです。
本格ミステリーを期待して読むと肩透かしを食らうかもしれませんし、一気に読むものではないと思います。何かが少し足りなくて、軽い。
展開が同じような感じなので、一気に読むと少しだけ飽きてしまう。

けれど、勉強の合間などに疲れた頭をほぐすのにはちょうどいい気がしました。
表紙の絵のお嬢様と執事はイメージにぴったりなのだけど、足元にいるのが風祭警部だとしたらちょっとイメージと違うかも。
アニメ化してもおもしろいかもしれませんね。

★★★

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「魔術はささやく」 宮部 みゆき

「最後にはタネを明かすよ」
そう言われている手品ショーを見ている気分でした。
推理するというより、ただ不思議で、先が気になってページをめくっていました。

.
1人目は、マンションの屋上から飛び降りた女性。
2人目は、地下鉄に飛び込んだ女性。
3人目は、走るタクシーに飛び出した女性。
遺書はなく、自殺ではないか。
新聞の小さな社会欄にはそう書かれていた。
なんの関連もなさそうな、ただの「事故」とも「自殺」ともとれるような事柄が、物語をはらんでいた。

素直におもしろかったです。さらさらと読めました。
勝手に予想しては見事外れたりして、かなり楽しめました。
そんなものがあるのか、と驚くようなこともありつつ、読み終わった後は少しすっきりするような後味の良さでした。

人間てやつには、二種類あってな。
一つは、できることでも、そうしたくないと思ったらしない人間。
もう一つは、できないことでも、したいと思ったらなんとしてでもやりとげてしまう人間。
どっちがよくて、どっちが悪いとは決められない。悪いのは、自分の意思でやったりやらなかったりしたことに、言い訳を見つけることだ。

★★★☆

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「夏と花火と私の死体」 乙一

とある夏の昼下がり。幼く無垢な殺人者の手によって、9歳の少女が死にました。
見つかったら大変。死体を隠さないと。一体どこに隠せば安全だろう?
幼い兄妹のスリル満点の大冒険の始まりです。


前から気になっていた乙一さん。たまたま手に取ったこの本が、デビュー作でした。
なんでも第6回ジャンプ小説・ノンフィクション大賞受賞作品らしいです。
面白いことをしてるなぁというのが第一印象でした。自然体でいて非日常、残酷でいて美しい。中でも「わたし」が花火を見る場面。
背筋がぞくりとしながらも、美しい情景だと思いました。

斬新だと思ったところは、物語の視点。
よく晴れた夏の日なのに、ある時点から温度が急に下がって、蝉の声も遠くなったような感覚。背中がもぞもぞします。
子どもの視点で物語が進められているのもポイントの1つではないでしょうか。
殺人を犯すと、大人は保身のために隠すでしょう。将来のことを、家族のことを考えながら。ところが子どもは違います。両親が大切にしている壷を壊した時と同じように、見つかって怒られるのが怖いから隠すんです。
そんな小さい頃に抱いたことのあるドキドキ感が透明なまま蘇ります。

著者がこれを書いたのは16歳の頃のことだそうで、その早熟さには驚かされますが、16歳だからこそ書けた作品だというような気もします。
もう1つの物語である「優子」にも共通することだけど、全体をベールのように包むある種の哀しさが独特な雰囲気をかもし出していました。

★★★☆

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「ななつのこ」 加納 朋子

駒子はどこにでもいるような本が好きで、ドジな女の子。
ある日本屋で見つけた『ななつのこ』の表紙に惹かれ購入する。
それは童話のような謎解きのお話。本当は大切な謎はいくらでも日常にあふれていて、そして誰かが答えてくれるのを待っていたのです。

1冊なのに2度おいしい。
構成力に舌を巻きます。これがデビュー作なんて、信じられない気持ちです。
この小説のジャンルはミステリー。
だけど、ここで言う「謎」は密室殺人のような特別なものではなく、すごく些細な日常の謎です。
ちょっと目を向ければ私たちの周りにもあるようなものばかりです。

どの話も好きだけど、中でも私が好きなのは「白いタンポポ」の章。
読んだ多くの人がはっとさせられたのではないでしょうか。
頭ごなしに否定しないことは、とても大切ですよね。
この本はミステリーでありながら童話でもあると思うのです。温かい気持ちで読み終われます。

表紙の絵もまた素敵。
左に座っているのは間違いなくはやと君だろうけど、隣は誰だろう。
子供の頃の駒子ちゃんか、お姉さんか、もしくは真雪ちゃんか。
おそらく駒子ちゃんなのだろうけど。温かくて素敵。好きな本が増えることは幸せ。
だから、読み終えた今すごく幸せな気持ちです。

「あなた方は、家から学校へ来るまでに、土を踏みますか?」
愕然、という言葉が大袈裟なら、何か不意討ちにでもあったような気がした。


★★★★★

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