「政と源」 三浦しをん

簪職人の源二郎と元銀行員の国政は、ふたり合わせて146歳の幼なじみ。
弟子の徹平と賑やかな生活をおくる源二郎と、男やもめの国政を中心にまき起こる、人情味豊かで心温まる事件の数々。
下町を舞台に繰り広げられる人情物語。三浦しをん、新境地!

心にどうぞ、ともしびを。

下町のハートウォーミングストーリー。
主人公は70歳代の幼馴染2人なんですよ。
片方は40代で妻を亡くしたつまみ簪職人、もう片方は70歳になった頃に妻に出て行かれた元銀行マン。
死がわりと身近にあって、体に痛みも出てくるお年頃。

老後の生き方についてふいに考えさせられる物語でもありました。 続きを読む

「神去なあなあ日常」 三浦 しをん

美人の産地・神去村でチェーンソー片手に山仕事。
先輩の鉄拳、ダニやヒルの襲来。しかも村には秘密があって…!?
高校卒業と同時に平野勇気が放り込まれたのは三重県の山奥にある神去村。
林業に従事し、自然を相手に生きてきた人々に出会う。

林業は斜陽産業、というのはよく聞く話です。
なり手がいなくて人手不足。なにしろ、他に選択肢があるのにわざわざ大変な道を選ぶことはない。
とはいえ、山に生きる昔ながらの男たちというのは格好よくて、自然とともに生きることの力強さに思わずじんとしました。

「なあなあ」(ゆっくり行こう、まあ落ち着こう)が口癖の村人たち。
木が育つように、焦らず、急がず生きること。
現代に生きていると忘れがちですが、何百年、何千年生きている樹木のそばでは、人間が世界の中心ではないこと、人間の力よりも大きなものがあることを感じずにはいられませんね。樹齢何百年の山とか、行ってみたいな。熊野古道とか夏に行きたい。
映像に適してそうと思っていたら、既に映画化もされているんですね、この小説。

そして世界共通のことですが、厳しい自然とともに生きる人たちの信仰心が、なんだかとても尊いものに感じます。お祭りの描写はなかなか壮絶で、個人的にはある場面の緑と白と赤の色合いがすごく頭に残ってて、美しかったです。
それから大好きなのは、犬のノコ。
忠犬ぷりがいじらしすぎて、かわいい。

正直、自分がこんな村で暮らすなんて想像もできないけれど、まるごと受け入れて暮らそうと覚悟を決めたなら、きっと自然とともに強く生きられそう。
人気作家がこんな風に林業にスポットライトを当てて本を書かれるのは、影響力もあっていいですね。

★★★☆

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「天国旅行」 三浦 しをん

現実に絶望し、道閉ざされたとき、人はどこを目指すのだろうか。
すべてを捨てて行き着く果てに、救いはあるのだろうか。
心中(もしくは自死)をモチーフにした短編集。


テーマは心中でありながら、主人公はみな生きる人たち。
死を身近に何を考え、何を想うのか。
死を選ぶ人たちにとって、死は救済であり、絶望的な生からの離脱であり、誰かに何かを訴える究極の手段でもある。

一方で、本書に登場する死は、餓死、焼死、溺死と壮絶なものが多いです。
「天国旅行」なんて美しいタイトルに反して、死は残酷な一面も持っている。

解説で角田さんが言っているように、小説では時に死が不必要に美化されていたりすることがあって、読み手を泣かせるためだけに描かれていることさえある。
それでも、誰にも等しく1度しかない「死」について、読みたびに涙してしまう。

本書では淡々と妻への想いを綴る「遺言」に泣かされました。
全体を通して、生と死と夢が入り混じる不思議な読了感。しをんさんの語り口がやさしくて好き。

「初盆の客」や「星くずドライブ」が切なくて好き。

引力とは振りきってはじめて、捕らわれていたと気づくものらしい。  (p68)

★★★☆

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「舟を編む」 三浦 しをん

真面目一徹な馬締は、白羽の矢を立てられ「辞書編集部」へ。
そこで、新しい辞書『大渡海』の編纂メンバーとして迎えられる。
遅々として進まぬ辞書づくり。

しかし、言葉という絆を得て、彼らの人生が優しく編み上げられていく。


装丁も題名も、どうやら題材が「辞書づくり」だということも、ずっと気になっていました。以前から読みたくて、ドキドキしながらページを捲った本でした。
読めてよかった。
まず、テーマが好き。
辞書は、単なる辞書にあらず。大渡海を渡る「船」である、という。
この広い世界で、溺れずにしっかりと目的地に辿り着くための要である、と。「言葉」というものに、徹底的に焦点を当てています。
日常的に用いているため、あまり意識に上がらないかもしれない1つ1つの言葉というものが持つ役割、その存在がクローズアップされ光ります。

誰かに何かを伝えることは、とても難しい。
だけど、私たちははるか昔からずっと、伝えようと努力をしてきた。
過去の遺物のような認識でいた辞書が、ものすごい存在感で迫ってくるようでした。昔は辞書とか百科事典とか、すごく身近な存在だったのに、いつの間にか全然手に取らなくなったなあ。
知らない単語も、前後の文で大抵は意味が掴めるし・・・なんて、わかったつもりでいて実は曖昧なままのことって、案外多い気がする。
言葉を大切に使う人はとても好感が持てる。仕舞い込んでいた辞書を、手の届く場所に移そうと思いました。不器用でも馬締さんの言葉が相手に届くのは、彼の言葉に対する誠実さもあるんでしょうね。

登場人物もユーモアたっぷりで楽しい。
個人的にはタケさんが大好き。「タケおばあさんは、馬締に向かって両目をつぶってみせた。本当はウィンクをしたかったのに、失敗したもようだ。」とか、何?もう、かわいすぎる!タケさんのさり気ない優しさもいい。
あとは、やっぱり西岡さん。
チャラチャラしてそうに見えて、芯がある人はカッコいい。

辞書をつくるって、壮大なことなんですね。
考えてみれば、言葉は生き物のようなものですものね。最近ニュースで中高生に聞いた辞書に入れたい言葉第一位で「エアーイン」という言葉があると知りました。初めて聞いた単語ですが、「空気を読んだ上でその場の雰囲気に入る」という意味だそう。
その一方で、今ではまるで使われず実社会からは消えてるような死語もたくさんあるでしょうしね。辞書をつくるというのは、とても意義のあることでしょう。辞書づくりの中で、「ぬめり感」まで追及してる場面にちょっと感動。地味ながら、熱い世界だな。

最後にブックカバーを外してイラストを見ると、1つ1つどの場面かしっかりわかって、思わずにやり。

「ひとは辞書という舟に乗り、暗い海面に浮かび上がる小さな光を集める。もっともふさわしい言葉で、正確に、思いをだれかに届けるために。もし辞書がなかったら、俺たちは茫然とした大海原をまえにたたずむほかないだろう」  (p27)

★★★★

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「風が強く吹いている」 三浦 しをん

箱根駅伝を走りたい―そんな灰二の想いが、天才ランナー走と出会って動き出す。
十人の個性あふれるメンバーが、長距離を走ること(=生きること)に夢中で突き進む。
自分の限界に挑戦し、ゴールを目指して襷を繋ぐことで、仲間と繋がっていく…
構想と執筆に6年をかけた、超大作。


清々しいほどに、真正面から青春を描いた小説ですね。
題材は「箱根駅伝」
それだけで様々なドラマが描けると思いますが、この本では作者のメッセージが明確に表れているのがまたよかったです。
速さを競い合う競技において、「速さ」を求めるのは当たり前。
ですが、ここでは「速さ」のみを求めるのではなく、「強さ」を追求します。

「強さ」とは一体何なのか。
登場人物が模索する様子が身近に感じます。
三浦さんの細かな言い回しもセンスが光ります。
例えば「釈迦の入滅を知った動物たちのように」とか、わかりやすくて絶妙。

予選会までももちろんいいんですが、見所はやはり本番。
襷を繋いでいく、ということがとても上手く描かれています。
登場人物が10人もいるのに、その個性がきちんと書き分けられて、クローズアップされているのもいいです。
思わず熱くなってページをめくりました。

ハイジの名監督っぷりも、必見です。
物語を通して、「道は1つじゃないんだよ」というのが、力強く私の胸に届きました。
「速さ」を求めることだけが答えじゃない。
もちろん「速さ」や「勝つ」ことを求めるのも1つの道だし、「強さ」を求めるのも1つの道。
走らないということですら、1つの道。何か励まされるものがありました。
テンポよく読めて、心が晴れやかになります。

今年も箱根駅伝を見るのがますます楽しみになりました。
それに、読んでいると自分も走りたくなる!

「きみの価値基準はスピードだけなのか。だったら走る意味はない。新幹線に乗れ!飛行機に乗れ!そのほうが速いぞ!」   (p200)

「頂点を見せてあげるよ。いや、一緒に味わうんだ。楽しみにしてろ」
清瀬は恐れを知らぬ王様のように微笑んだ。
  (p402)

★★★★

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「まほろ駅前多田便利軒」 三浦 しをん

直木賞受賞。
東京のはずれ、「まほろ市」で便利屋を営む多田。
そこに転がり込んできた高校の時の同級生・行天。
さまざまな依頼と、個性的な人たちとの物語。


読んだ時のテンションが、この本のどこか気だるい感じとマッチして心地よかったです。
夕暮れを見る時の焦燥感や切なさに似たようなものがありました。
一言で黒か白か言えないような、曖昧だけど確かに存在するものがうまく描かれていて、とても楽しめました。とにかく読みやすい。

多田と行天の関係が好き。友達じゃないし、仕事仲間とも少し違う。
だけど目の前で確かに繋がっている関係。
映像化しやすそうな作品だなと思ったら、既に映画化もコミック化もされてるんですね。
単行本でも話の間にイラストがあったけれど、行天が思ったよりもカッコよくてびっくりしました(失礼)。個人的な好みとしては星くんが好きです。

裏表のギャップがいいですよね。
たまに台詞が心に刺さります。
装丁の色や写真がうまい具合に世界観を表していると思いました。

だれかに必要とされるってことは、だれかの希望になるってことだ。  (p100)

不幸だけど満足ってことはあっても、後悔しながら幸福だということはないと思う。  (p288)

★★★★

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