「物語ること、生きること」 上橋 菜穂子

物語にしないと伝えきれないものを、人は、それぞれに抱えている。
「獣の奏者」、「守り人」シリーズの著者が語る、作家になるまでにたどってきた道程。
原体験となった祖母の昔話から、自作の誕生秘話までを語る。

読むことの喜び、書くことの喜び、そして生きることの喜びを教えてくれる一冊。

大好きな上橋さん自身の物語。
「どうやったら作家になれますか」という問いには、具体的な書き方の技術でなく、どんな人がどんな風に思って、どのようにして作家になったかという物語が一番の答えになる。

上橋さんの生き方を丁寧に紐解いていますが、ふいにエリンやバルサの欠片を見つけて嬉しくなりました。
私の好きな作家の方たちはよく、物語について、書かずにはいられない、と言います。
上橋さんもそんな、作家としての性の持ち主だったのでしょう。
ただ、そんな人たちがすべて作家になれるわけではなく、一歩踏み出す勇気が必要なんでしょうね。

私も祖母や祖父との幼い頃の思い出は何にも代えがたい宝物ですが、そんなことをふと思い出しました。
小さい頃に毎日母が寝る前に読んでくれた絵本のことも思い出します。
甘ったれの幸せな子どもで、このままじゃ作家になんて絶対なれないと思っていた上橋さんが、人に笑われても一心に努力する偉人たち(偉人伝)に励まされたり、同じものを見て人とは違う見方をするかだということに気付いたりするエピソードも印象的でした。

彼女の生い立ちを知ることで、どうしてあんな素敵な物語が生まれたかに触れることができて幸せです。
心に残る人生観も数多い。それにやはり、言葉が美しくていいですね。
著者をはじめ、この本を世に出してくれた方々に感謝です。

少なくとも、生きているあいだ、人の幸せとなる何かを生み出せるなら、それはそれで、意味があるのではないか。
自分も、そんなふうに何かをなしえる人になりたいと願った。
(p45)

★★★★☆

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「神の守り人 上&下」 上橋 菜穂子

遠い昔、一人の娘が手にした宿り木の輪は、彼女をサーダ・タルハマヤ<神と一つになりし者>に変えた。
神人となった彼女の圧倒的な力で全土が征服された暗黒の時代を繰り返すことがないよう、語り継がれてきた伝記。その国の名は、ロタ。
国をも揺るがす大きな秘密に関わる少女を助けてしまったバルサは、陰謀と裏切りの闇の中をひたすら駆け抜ける!


毎度のことですが、守り人シリーズは本を開くだけでその世界にじっくり浸れます。
上橋さんの描く世界観が大好き。
主人公の設定もまた、ファンタジーの主人公としては希少ですよね。
弱い主人公が成長していくのでなく、既に厳しい道のりを歩んで稀ならぬ強さを得た主人公。
そんな主人公でも、当たり前ですが悩み迷うんですね。

上橋さんもあとがきで述べてますが、私もバルサがとてもとても好き。
繰り返される歴史の不思議さと風化されていく伝記。
南北問題や人種差別など、一筋縄にいかない問題がとてもリアルでした。
冬を越えられないかもしれない北部を救うために、南部への増税を提案する王。不平等だと訴える南部の領主。
「平等・不平等をいうのなら、土地が、まず平等ではないのだ」と強く返す王の言葉が心に刺さりました。その通りなんだよね。

本当の意味での平等なんてありはしないんだから、優しさをもって窮地にいる人を助ける姿勢をきっと忘れたらいけないんだと思います。
得られるはずの自分の利益が減るのはもちろん辛いけど、人として生きるってそういうことなんじゃないかなと。
誰もが自分の正義を持っていて、それを主張し、押し通そうとすれば、争いは避けられないのかもしれませんね。
かといって、我慢できる人が我慢する、なんていう方法では限界があるだろうし。今回の出来事は起こるべくして起こったことなんだろうけれど、どうすれば防げたかなんてまるで思い浮かばない。

それにしても、世界観が素敵すぎて、その描写に感動させられました。
とくにユグドラシル。鳥肌立ちます。
今作も本当にいい作品でした。多くの人に読んでもらいたいシリーズです。

「絶望するしかない窮地に追いこまれても、目の前が暗くなって、魂が身体を離れるその瞬間まで、あきらめるな。
力を尽くしても報われないことはあるが、あきらめてしまえば、絶対に助からないのだからね」
  (<上> p294)

★★★★☆

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「虚空の旅人」 上橋 菜穂子

隣国サンガルの新王即位儀礼に招かれた新ヨゴ皇国皇太子チャグムと星読博士シュガは、“ナユーグル・ライタの目”と呼ばれる不思議な少女と出会った。
海底の民に魂を奪われ、生贄になる運命のその少女の背後には、とてつもない陰謀が―。


大好きなチャグムが再び登場!
「まあ、前に会った時よりも随分と成長して!」と、まるで親のような心境になりつつ読みました。なんていい子に育ったんだろう。
今回は舞台が南国ということもあり、開放感溢れた美しい世界でしたね。
今までの舞台ももちろん美しくはあるのだけど、この世界の新たな一面に触れることができてわくわくしました。もうこの世界にとことん魅せられています。

首謀者たちである島守りは本当にばかだ。なんて思いつつ、結構気持ちがわからなくもない。
見えない自分を守る力よりも、目の前に見える脅威の方が現実的だものね。妻への愛情がないのではなく、愛情があるからこそ妻の態度が気に障る、というのもわかる。でも、考え方が子どもだし、見え方が浅い。と思うのは結果を知っているからなのかな。島国をまとめあげるって、本当に難しそう。

あまりにも優しすぎる者に国のトップは務まるのか。
チャグムにしても、タルサンにしても。人の期待を裏切らないし、誰かを見捨てたりもしない。
それは理想であるけれど、政治的駆け引きも必要になってくる中で優しさだけじゃ務まらない。
新ヨゴ皇国にしても隣国サンガルにしても現国王はとても非情だ。
非情というか、シビアなのだ。国を守るためには、情があっても切り捨てる勇気も必要なはず。

そう思っていたけど、やはり厳しさだけじゃなく優しさもあってほしい。
見捨てない、裏切らない、と思える人の元にいれたら、それはすごく幸せなことなんだと思います。
このシリーズが大好きすぎて、読むのが本当に幸せ。

★★★★

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「夢の守り人」 上橋 菜穂子

いとしい者を「花」の夢から助けようとして逆に花のために魂を奪われ、人鬼と化すタンダ。
命をかけてタンダを助けようとするトロガイとチャグム、そしてバルサ。
人と精霊の世界が混在する「守り人」シリーズ第3弾。


幻想的で美しい世界と、シビアな現実とをこんな風に1つの世界に描けるものなんだと、半ば呆然としました。
児童書でありながら、すごく深い。 続きを読む

「闇の守り人」 上橋 菜穂子

幼かったバルサを育て、鍛えてくれた養父ジグロ。
彼が死んでから必死に目をそらしていたものとしっかり向き合うために、バルサは生まれ故郷であるカンバルへ向かう。しかし、道中の闇の洞窟で子どもの悲鳴を聞いたバルサは子どもの命を助け、それにより新たな運命へと巻き込まれていく。


精霊の守り人 」を読んだのが9年前。
常に貸出し中で、予約なんて制度も知らず、当時は学生でお金もなく買えず、半ば忘れ去られ今まで読まずにきました。
先日図書館に行った際に全巻揃っていて感動。速攻借りました。思えば、もう出版から10年も経ってるんですね。それでも魅力は全く色褪せません。
「精霊の守り人」も再読した上で、わくわくしながら読みました。 続きを読む

「精霊の守り人」 上橋 菜穂子

名の知れた用心棒”短槍使いのバルサ”はある日、川へ転落した新ヨゴ国の第二皇子チャグムを助ける。それが、全ての始まりだった。
バルサは礼のために招かれた后ノ館でチャグムが水妖に憑かれていること、災いを恐れた帝からの刺客に狙われていること、を告げられると同時に護衛役を頼まれるのだった。


すごいすごいすごい。
圧倒的でした。常に貸し出し中でやっと借りられただけあります。
何がすごいって、まずは”サグ”と”ナユグ”の宇宙観でしょう。
同じ場所に同時に存在する世界。精霊たちの住まう世界。
チャグムを通して見たナユグの美しさと広大さは素晴らしいものでした。

それとこの物語の主人公、バルサは三十代前半の女性。
そもそもこの設定の時点で風変わりです。そして彼女はべらぼうに、強い。
義父ジグロから教わった武術は天性のものもありみるみる上達し、今ではそこらへんの男じゃ歯が立たないほどの強さ。戦うシーンの緊迫感なんかも凄かったです。
呪術師や星読みといった人たちの存在も物語をより楽しませてくれました。

七十歳にもなるトロガイがその生涯でもまだ学びきれていないというほどに深いこの世界。
これほどシリーズになっていてくれて嬉しいと思う本は初めてかもしれない。
昔から伝えられているものって時が経つにつれて忘れられていくものが多い、だからこそ今現在も伝えられてきてるものはとても大切だと思うんです。

ナユグの谷はまるで底がないように、ふかく、暗い。そのしめった、小暗い闇の底に、ときおり、なにかうごめく気配を感じたりもした。
だが、ナユグの風景は、おそろしいだけではなく、はっと胸にせまるほどうつくしくもあった。ナユグの水は瑠璃のように青く、どこまでもふかい。
花は、まるでおのが命をほこっているかのように、あざやかにさきほこっている。大気は、胸がすくほどにすんで、甘かった。

★★★★★

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