「永遠の仔」 天童 荒太

幼い頃の秘密を抱えた3人の若者が、再会した。
彼らが出会ったのは<動物園>と囁かれる、とある病院の児童精神科だった。
17年前の事件とは?今は看護師、弁護士、そして警察官として生きる彼らの過去と現在を追う。


これは、現代の生存者(サバイバー)たちの物語です。
性的虐待、育児放棄、劣等感など、私たちの心を苛むものが溢れる世の中で、心や身体に深い傷を負いながらも懸命に生きてきた者たちの軌跡が描かれていました。
読んでいて目が離せなかったのは、登場人物たちがあまりにも儚く危なげだったからかもしれない。
ラストは、ボロボロと涙が止まらないくらいに泣きました。

「報われない」という言葉が浮かぶ一方で、同じくらい強く「報われた」という思いが浮かびました。壮大な物語の全てが、1つに繋がった瞬間でもありました。
深い傷はただでさえ癒えにくいのに、治療することなくフタをすれば膿んでしまうのは当然のこと。それでも、生きるためにそうするしか道がなかったことが、すごく悲しい。
フタをしてたはずの傷や感情が、時に暴走し望まぬ行動を起こしてしまう。思い通りに生きれない自分への絶望感はどれほどだったろう。

心に傷を抱える人たちは、誰もが自尊心を持てずにいる。
本当に心の底から生きれずにいる。もがいて苦しんでいるのに、救われない。自分が生きている価値に悩みもするでしょう。
だけど岸川さんが言っていたように、自分を認め受け入れてくれる人がいるということで、自分が生きていてもいいんだと思える。
それこそが、暗い闇から抜け出せる光なのかもしれない。

親になっても、誰もが「きちんとした大人」になれるわけでもなく、介護が必要な頃になれば再び子どもに戻る。実は世界は、子どもで溢れているのかもしれない。
子どもはすごく弱い。けれど、子どもは皆、純粋な優しさを持っている気がします。大切な相手を守りたくても、愛したくても、時にその方法を誤ってしまうこともある。
それでも、大切な人を受け入れ、自分も受け入れられて生きていけたら、それはとても素敵なことなんじゃないかと、心から思えました。
心揺さぶられる、大作でした。

「怖いだろうし、自分への嫌悪にも耐えなきゃいけないし、すごく勇気の要ることだけど、支えになってくれそうな人に、すべてを話して、受け入れてもらって・・・・・
こちらも、同じようにして、相手を支えられるようになったら・・・・・
つらいことばかりの人生にも、意味が感じられるようになるかもしれない」  (p283)

★★★★☆

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「悼む人」 天童 荒太

第140回、直木賞受賞作。
「悼む」とは、故人に想いをはせる行為のこと。
死者を悼み、旅を続ける青年。
死期が迫り、懸命に生きる母。
死を通して見えてくる、愛と生のかけがえのなさを描く――


天童さんの本はおそらく3冊目。純粋な優しさを感じる文体が好きです。
「悼む人」は、ものすごく重いよ。かなり。と、読んだ人たちに言われ、なかなか手が伸びなかったのですが、ようやく読めました。
物語の中盤、美汐が家で子どもを産むと決めた前後からわりと泣き通しでした。読んでて、ちょっとしんどかったです。

「悼む」の意味はわかっても、「悼む人」とは・・・ 一体何?
と思って本を開くと、そこには分け隔てなく死者を悼んで日本中を旅する青年の姿がありました。
悼むポーズを想像すると、私だったらお近づきになりたくないと思うこと間違いない。
「誰に愛され、誰を愛し、どんなことに感謝されていたか」なんて突然聞かれたら、新手の宗教か何かですか?と思ったに違いない。

最初は違和感でいっぱいでしたが、単純に愛のため、などではなく、そうせざるを得ない強迫観念に突き動かされての行動だと知り、大分見方が変わりました。
たくさんの死者を悼む旅の描写から、いわゆる「死」に焦点を当てた物語なんだとはじめは思いました。

すべて読み終えた今は、さまざまな愛の形を描いたものだと気付きます。
親子の愛、男女の愛、家族の愛などなど、死を通して描きたかったのはこちらの方なんじゃないかなと。

賛否両論あるかもしれないけど、私は巡子の静人に対する愛情がすごく素敵だと思います。
たとえ死に目に会えなくても、相手を尊重する愛情。
それから、倖世の朔也に対する愛情も、わかるような気がします。
愛する人から愛されたいという気持ちは、たとえ相手を失うことになったとしても、抑えがたいものだと思うから。自分に自信がなければ無いほどに。

巡子のターミナルケアの描写はそれにしてもリアルで、読んでいて怖かった。死に向かう道はとても孤独で。
ごく普通に生きていたらまるで不必要に思える「悼む人」だけど、死の側から見つめると、看取られないような死に方をする側から見ると、まるで救いの光のようにすら感じます。
本人は宗教じゃない、と否定するけれど(実際、既存の宗教にのっとってるわけではないので、それは正しいのだけど)、宗教というものは、教祖というものはこうして生まれていくのかな、とも思いました。

静人の生き方は、正直しんどい。
だけど、それで救われる人もいるんでしょう。
彼なりのルールがきちんと感じられるところも、軸のブレなさを物語っているような気がします。人だけど、人に非ざる存在のような。
彼が母親の死を知った時に、彼は人になるか、あるいはもう人に戻らない道を選ぶか、岐路に立たされるのかもしれません。恋は最終的に彼を人には戻してくれなかったから。
それにしても、やっぱりずしんと重かった。

読まなきゃよかった、なんて思わないでもないけれど、この本を読んだことで少し優しく強くなれた気もします。
約10年かけて書かれた直木賞作品に偽りなし、という感じです。

★★★★

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