「キノの旅Ⅷ the Beautiful World」 時雨沢 恵一

「ボクも、驚きましたよ」

そう言ってベールを掻き上げた黒ずくめ。

本書の半分を占めるエピローグ「船の国」、他「歴史のある国」「ラジオの国」などを収録。


前巻もエピローグが長くて驚いたけど、今回はそれよりも更に長い。
なんと、エピローグだけで本の半分を占めているのです。
びっくり。
でも読んで納得。余韻の残るこのエピローグは、短くしちゃいけないものでした。

「キノの旅」シリーズの魅力はいろいろあると思うんですが、その1つがキャラクターだと思っています。
この巻で新たに主要キャラになりそうな人物が登場。
時雨沢さんの描くキャラクター、好きです。キノもエルメスも、シズ様も師匠もみんな。
新キャラには、これからも登場してほしいなあ。
それから、何人もの主要人物の目線で描かれた物語の数々も魅力だと思います。時間軸すら異なる物語もあれば、まるで違う人の物語が交差することもある。それが、すごく楽しいです。

読んでいて、少しFF4を思い出しました。キノの旅のラストが今から気になります。それぞれの物語を1つの物語としてまとめてくれることを期待。
今回はエピローグがやはりいいけれど、「ラジオの国」もおもしろかった。
ところどころに時雨沢節が出てるのもいいですね。
本書でキノという人物の魅力に改めて気づかされた気がします。批判をしないし、偽善もない、ある意味自然体なところに私は惹かれたのかもしれません。

知ってしまったからね。
もし、自分の力で多くの人に”未来”ってものを与えられるとしたら――  ( p183)

★★★☆

follow us in feedly

「キノの旅 <7> the Beautiful World」 時雨沢 恵一

キノに師匠にエルメスにシズ様。どの人物にも会える短編集。

「冬の話」「森の中のお茶会の話」「川原にて」など8話を収録。

キノの秘密にまた少し触れられます。


ものすごく久々にキノの旅を読みました。
6巻を読んだのが8年前なので相当久しぶり。
それでも結構覚えているものですね。誰しもキャラがいいし、謎に包まれてて気になってた部分が多いから記憶に残ってたみたい。

さて、久々のキノの旅ですが、しょっぱなから時雨沢さんがやらかしてました。
最初から登場する「カラーなあとがき」
最後に書かなきゃあとがきじゃないよ!と思いつつ、ものすごく楽しそうなのでこっちも読んでて気持ちが上がりました。
まるで型にはまらない自由さが清々しいですよね。あとがき一文目の、「作者の時雨沢ですか?」は、本当に聞いてどうする、という感じで最初から笑えました。

プロローグ・エピローグの、キノがキノになった話が一番好きでした。
そうか、キノはキノになる前はこんなにもキノじゃなかったんだな、と。
エピローグの長さに驚いたけども、必要な長さでしたね。
淡々としているのでスルーしてしまいそうになるのですが、今回結構グロテスクでしたよね。
もともと人が死んだり、悲惨だったりする話はありましたが、今回はより具体的というかなんというか。
描写がグロさを感じさせるものではないのでいいんですが、なんだかすごい世界だなと改めて感じました。

それから「冬の話」を読んで、法律も宗教も、その中にいるとそれが当たり前だけど、外側から見ると随分解せないものになるんだなと感慨深く思いました。人の生死に関わる問題って、個人に委ねるにはある種の危険をはらんでますけどね。
それでも「生きてほしい」も「死んでほしい」も、相手を想う気持ちからきているのは共通なんですよね。
全貌が見えてくるのも楽しいし、あとがきも楽しみだし、8巻も近々読みたいと思います。

★★★

follow us in feedly

「キノの旅Ⅵ the Beautiful World」 時雨沢 恵一

「祝福のつもり」「安全な国」「中立な話」をはじめとする8話の短編集。

いつもにも増して淡々と物語が語られていた気がします。
「安全な国」などは苦笑いしながら読んでいました。
まさに「青少年有害社会環境対策基本法」そのものじゃないですか。
危険なもの全てをなくせばいいんじゃなく、危険なものにも対応対処できる人間を育てることの方が大切ですよね。とても簡単なことなのに。

「祝福のつもり」が一番好き。
すごくいい話。悲しい話ではあるけど、優しい哀しさ。
今までの話の中でも特に好きかもしれない。
ベタベタな優しさじゃなくて、心に染みるような優しい話。情景もすごく綺麗。
最後のあとがき、相変わらずやってくれるなという感じ。
ちょっと挑戦しようと思ったんだけど、生易しいことじゃなくて断念。
ウェブを見て周っていたら、ちゃんと回答している人がいて敬服。
すごいなぁ。キーワードが素晴らしいこともあって、どれも面白かったです。
次巻も楽しみ。

「つまり本当に危険なのは、人間じゃないのかと思う。正確には、人間の意志だ。もし危険だとされている、そう思われてる何かが人を傷つけても、それは物そのものに意思があって、勝手に動いて人を攻撃したわけじゃない」

★★★★

「アリソン〈2〉 真昼の夜の夢」 時雨沢 恵一

ヴィルの冬期研修旅行を聞きつけたアリソンは、とある計画を立てます。
ところが、計画狂って二人は怪しい村に閉じ込められてしまいました。
実は、その村はただの村ではなかったのでした。前回お馴染みベネディクトが再び活躍します。

面白かったです、すごく。
前回で物語は完結していたのに、「Ⅱ」なんて一体どんな展開になるんだろうと楽しみにしていたけれど、楽しみにしていただけありました。
ヴィル、アリソンは言うまでもなく好きだけど、ベネディクトさんもだいぶ好きになりました。何気に最後にはフィオナさんと約束事までしているし、ちゃっかり者感は否めないけど、かなり好感。
友人も登場回数少ないくせに面白いし、たくさん笑わせてもらいました。
決して薄い本ではないのに、あっと言う間に読み終われちゃう。
あとがき・作者近影もいつもにも増して楽しかったような気がするし。

ヴィルはあんなにも冷静で頭もいいのに、どうしてああも鈍感なんだろう。
その分、隣でやきもきする可愛いアリソンが見れるからいいのだけど。
アリソン、ほんと可愛いなぁ。扉絵の二人の寝顔も最上級に可愛いし。
物語はテンポ良く進んでいってるけども、王女様の話はよくよく考えてみれば結構重い。王女様の取った行動と想いの深さは、勝るものなく王家に相応しいものだったように思います。
読み終わってから序章を読むと全て理解できるのは前回と同様。
今ではすっかりアリソンファンです。

★★★★☆

「キノの旅Ⅴ the Beautiful World」 時雨沢 恵一

価値観の違いによって、人は同じものを見ていてもその物事に対する感じ方が違います。
よって、周りがそれを “美しくない” と言ったとしても、自分が “美しい” と思ったらそれは確かに “美しい” んです。これは、そういった価値観のお話でした。
このシリーズも5巻目に入り、そろそろネタが尽きちゃうんじゃないかと心配してたんですが、要らぬ心配だったようです。

時雨沢さんの作品はあとがきも特徴的だけど、プロローグ・エピローグも一風変わっていて、今回のは私にとって今までの中で一番に好きなものになりました。
この「夕日の中で」でも感じたことだけど、価値観の違いを目の当たりにすると切なくなってしまう。
たとえ偽物の世界でも “当人にとってそれが本物であればそれでいい” と思うのに、ふと “それでもそれは所詮偽物に過ぎないんだ” と気づいて悲しくなる。そういう切なさに溢れていました。

とくに好きだったのは「英雄達の国」でした。
キノの戦闘シーンもかっこよかったし、新鮮に楽しめました。
やっぱり強いですね。「用心棒」に出てきた師匠も強くてかっこよかったですし。
それに加えて「病気の国」で見られたような優しさもあって、更にキノが好きになりました。

キノは男の目を、ゆっくりと閉じた。
「 “―英雄達は還らず。ただ我々の胸に生き続ける―” 」
キノはつぶやいた。そして目を閉じた。

★★★☆

follow us in feedly

「キノの旅Ⅳ the Beautiful World」 時雨沢 恵一

私たちが暮らしている場所には、その場所その場所のルールがあります。
それは法律で決められていたり、伝統的なものだったり、形は違っても “守らなければならないこと” や “決してやってはいけないこと” は存在します。
キノが旅をして周る国々でももちろんこういったルールはあります。
しかし中にはそのルールに不満を持っている人もいるわけです。
そういう人たちはどうするんでしょうか。

自分では何もせず、ただその状況が変わってくれるのを待っているという人も少なくはないはずです。
他力本願的にキノに助けを求める人に対し、キノはいつもと同様手を差し伸べることはしません。
それでも、キノとの話の後に自分でその状況を変えた人はいます。
つまりは自分でやろうと思えばできたわけです。
“Wherever I go, there I am.” 全ては自分次第だと思います。

今回のは特に温かみがある笑いがあった気がします。
「二人の国」の番人さんや「伝統」のシズの話は特に憎めなくて好きでした。
「認めている国」のシステム、凄いシステム。ちょっと惹かれてしまう。
他には「紅い海の真ん中で」の雰囲気も気に入っています。

女は、泣きはらして真っ赤になった目で微笑んだ。
「この世に、神様も仏様もいないんだって。だから奇蹟は起こらないんだってこと。
人間の問題は人間の手によって解決されるべきだって分かったの。だから、つまり・・・・・・。いつか優しい魔法使いのお婆さんが、一振りで私の願いを叶えてくれると思っていた・・・・・・。私のお父さんもお母さんも、お互いに何もしないで、いつもあんなに仲がよかった訳じゃない。たぶん・・・・・・。いいえきっとそうだわ」

★★★☆

follow us in feedly

「キノの旅Ⅲ the Beautiful World」 時雨沢 恵一

知っているか、知らないか。
時にそれは生死を、また運命を大きく変えます。
ここでは「知らなかった者」の末路が描かれていました。
知らないことはこれからどんどん学んでいけばいいのだけど、「知らない」ということを知らないのは本当に致命的な気がします。

私の3巻でのお気に入りは「差別を許さない国」でした。
もし私があの国の中で暮らしていたら、きっとあの国の国民同様のことを感じ、思いながら暮らしていたことだろうと思います。
外から見たら、「なんて痛い国民なんだ」という感じだけども、そういう事って中にいたら全然気づかないものですよね。
たまには、第三者的に自分を見てみるのも必要なのかもしれない。

自分とその周りだけじゃなくて、もっと外の世界に目を向けるべきなのかもしれない。なんてことを思いました。
たとえ、”本当の蒼い空”に比喩されているような “絶対的真実” がなかったとしても。
この話もそうなんだけど、全体的にオチと構成が凄く面白かったです。

おもしろいといえば、あとがきです。
2巻でもおもしろい書き方してるとは思ったんですが、この巻でも一風変わった書き方をされてました。こういうのほんとに好きです。
普段だと、あとがきは小説を読み終わった後の締めくくりとして楽しんでいたんですが、あとがきを最初から楽しみにして手に取る本なんて初めて。次の巻もとても楽しみです。

「――国の連中は、ペンキで塗られた城壁の内側が、たくさんの蛍光灯で照らされてるのを、”本当の蒼い空” だと思ってる。じゃぁ・・・・・、もし、旅人のキノさんが、『あなたにとっての、”本当の蒼い空”って何?』。そう訪ねられたら、なんて答える?」

★★★★

follow us in feedly

「アリソン」 時雨沢 恵一

河と山脈を挟んで東西にある2つの国、ロクシェとスー・ベー・イルは互いに “自分達こそが最初の人類だ”と主張し、長い長い間戦争を続けている。しかし、この世のどこかに『戦争を終わらせることができる、それだけの価値のある宝』があるという。


なんだかアニメを見ているようでした。イラストのせいでしょうか。
いつアニメ化されても不思議じゃない気がします。
口絵で見られる黒星さんのイラストは相変わらずによかったです。
表情豊かな人物や機体のカッコよさはほんとに素敵でした。

わくわくするような話やドキドキするような話とはちょっと違うんですが一気に読めちゃうような楽しさはありました。
キノと同様に読者に対して疑問をなげかけてきます。
人に銃を向けるのはよくないよ、と言うヴィルと、大切なものを守るためなら躊躇いなく人をも殺す、というアリソン。
一体、何が正義なのか。
読み終わって納得。読み返して少し切なく。最後の平和がとても心地よかった気がします。

そしてアリソンとヴィルのコンビはかなりのお気に入り。
個々でも好きなんだけども私にとっては、二人揃ってこそ。他にはムートおばあちゃんが大好き。

「ムートおばあちゃんは、僕達によく言ってました。 “わたしは自分で考えて、自分で見つけた道でがんばっている。誰がなんと言っても、自分の道を進むのはすてきなことなのよ”って。そして続けてこうも言います。”別の人が進んでいる道を、それが自分の道を否定することであっても、 ―― 間違っているなんて決め付けちゃだめよ”って」

★★★★

follow us in feedly

「キノの旅Ⅱ the Beautiful World」 時雨沢 恵一

どの話も、最初のページにあるように「何が正しいのか?誰が正しいのか?」を見つめた話だった気がします。
窮地に立たされた時に、悪と悪のどちらかしか選択ができなかった時に、一体どちらを選ぶのが正しいのか。
時には正しい答えがない時だってあると思うんです。
「優しい国」の話が一番好きでした。
ほっとしました。

この話を読んでほっとするのも変なのかもしれないけど、さくらちゃんの手紙を読んだからほっとできたんです。
あの手紙は、さくらちゃんがあの晩起こることを知らなかった、とも読めるんですが、知ったいた、とも読めるんです。
いくら子供だとしても周りの大人たちの態度が変わったりしたのを全く気づかなかったはずはありません。
最初に親の手紙を読んだ時は大人のエゴに対して凄く嫌な気持ちがしたんですが、その後の手紙を読んでそれはなくなりました。
さくらちゃんが自分の決断で国に残ったとのだとすれば感じるものは全く違います。
かなり自分の都合のいいように解釈しているのかもしれないけど、私はそう思いたいんです。

皮肉のこめられた英語の副題も魅力の一つだと思います。
というより、皮肉は全体的にこめられていましたが。
「過保護」とか、子供が可哀想で仕方なかったです。
子供の意思はどこへやら、ですね。
“受験戦争”を好んでやってる子供なんていないでしょうに。
いい会社や学校に入ることってそんなに大切なことなんでしょうか。
結局、「何が正しいか」はその人が何を信じているか、次第なんでしょうけども。

★★★

follow us in feedly

「キノの旅―The beautiful world」 時雨沢 恵一

これは問題提起小説だったように思います。
“意思の疎通の難しさ”、”少数派意見を消してしまう多数決の危険性”、”目的達成の影で見えなくなってる現状” などを題材にした5編の短編小説からなっているんですが、全てに作者の”自分の頭で一度しっかり考えてみてほしい” といったメッセージがこめられている気がしました。
主人公であるキノはいつも、肯定するわけでもなければ否定するわけでもありません。
ただ彼女に考えがあるときはそれに沿って動くだけで。
淡々とした口調とのんびりした様子、それからエルメスとの会話のほのぼの感がたまらなく好きだったりします。

キノは、「考える」ことのきっかけをあたえてくれました。
一番考えさせられたのが「平和の国」の章でした。
“犠牲の上で成り立っている平和”についてだったんですが、これは私が今までずっと目を背けてきたことでした。
誰だって自分が大切です。
だからこそ自分を大切にする行為がたとえ、他のものを犠牲にすることに繋がってしまったとしても誰にも責めることはできないと思うんです。
だけど、本当にそれでいいんでしょうか。

この章でいえば、二つの国が和解するような方法が実際の世界でも見つけられないものか・・・答えはまだ見つかりそうにもないけど全ては考えることから始まるのだと思います。
キノシリーズはこれから先期待大です。

「ボクには『ちゃんとした大人』っていったい何なのかわからない。
いやなことができるのが『ちゃんとした大人』なのかな?
いやなことを延々と続けて、それで人生楽しいんだろうか?
それも無理やり手術でこしらえて・・・。ボクにはよくわからないね」

★★★★

follow us in feedly