「華岡青洲の妻」 有吉佐和子

世界最初の全身麻酔による乳癌手術に成功し、漢方から蘭医学への過渡期に新時代を開いた紀州の外科医華岡青洲。

その不朽の業績の陰には、麻酔剤「通仙散」を完成させるために進んで自らを人体実験に捧げた妻と母とがあった――美談の裏にくりひろげられる、青洲の愛を争う二人の女の激越な葛藤を、封建社会における「家」と女とのつながりの中で浮彫りにした女流文学賞受賞の力作。

女は、なんて業が深いんでしょう。

世界に先立つこと40年弱、1804年の日本に世界で初めて全身麻酔術を成功させた人がいたことを、この本で初めて知りました。注目すべきは手術の腕ではなく、麻酔を作り上げたという功績。 続きを読む

「青い壺」 有吉佐和子

無名の陶芸家が生み出した美しい青磁の壷。
売られ盗まれ、十余年後に作者と再会するまでに壷が映し出した数々の人生。

定年退職後の虚無を味わう夫婦、戦前の上流社会を懐かしむ老婆、四十五年ぶりにスペインに帰郷する修道女、観察眼に自信を持つ美術評論家。
人間の有為転変を鮮やかに描いた有吉文学の傑作。

青い壺とともに眺める、人の営みのおもしろさ。

ある一人の陶芸家が生み出した美しい青磁の壺は、売られ、盗まれ、譲られながら人の手を渡り、果ては遠く異国の地へ運ばれる。
青い壺が映し出したそれぞれの人の営みが今ここに。 続きを読む

「恍惚の人」  有吉 佐和子

文明の発達と医学の進歩がもたらした人口の高齢化は、やがて恐るべき老人国が出現することを予告している。
老いて永生きすることは果して幸福か?日本の老人福祉政策はこれでよいのか?
―老齢化するにつれて幼児退行現象をおこす人間の生命の不可思議を凝視し、誰もがいずれは直面しなければならない“老い”の問題に光を投げかける。
空前の大ベストセラーとなった書下ろし長編。

これが、40年以上も前に書かれた本だなんて。
名作は年月が経っても色褪せないように、時代を感じさせても古臭さを一切感じさせない1冊でした。
「愛」と同じく「老い」というのは、時代を越えて語り継がれる普遍的なテーマですよね。 続きを読む

「私は忘れない」 有吉 佐和子

日本のめざましい経済成長の陰に、電信電話もなく台風の被害も報道されない僻地。
スターの座を夢みながらチャンスを逃した万里子は、衝動的に訪れた離島、黒島で厳しい自然の中でたくましく運命を切り開く人々の純朴な姿に心を打たれる。


昭和34年、著者が20代の頃に書かれた本書は、現在絶版になっています。
幼少期の主人公をはじめ、戦争を体験している人たちが生活している時代です。著者が実際に離島に足を踏み入れ取材をしてできた本書は、そんな時代に確かに存在していた離島の様子をありありと写し出しています。

自然豊かで、まるで南の楽園のような一面も持ちつつ、死者を出すほどの台風の被害や、医師がおらず急病になっても助けを呼ぶ通信手段がないこと、4日一度しか本土から船がこないことなど、同じ日本でありながらまるで違う。日本語だけど、言葉も少しだけ違う。
「さようなら」を、「あしたよオ」「あしたよなア」と言うのが好き。

スピードが速くて、喧騒に巻き込まれやすい都会において、こんな暮らしがあるということを、忘れちゃいけない。それは、ベルトコンベアーに乗せられてするすると時間を空費してしまいがちな自分へブレーキをかけてくれる。今はもうこんな離島はないかもしれない。
それでも自分の心に、何かしらブレーキになるものを持っておくことは、都会でただ消費されて生きることを防ぐ大事な鍵になるように思いました。

ブレーキ。
私たちの世代に、一番欠けているのは、これだった、と私は気がつきました。叱ったり、躾たり、自信をもって導いたりする大人が、少なすぎるからです。 (p347)

★★★☆

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「一の糸」 有吉 佐和子

酒屋の箱入娘として育った茜は、17歳の頃、文楽の三味線弾きの弾く一の糸の響に心奪われた。

独身を通した茜は、偶然再会した男の球根を受け入れ、後添えとなるのだった。
大正から戦後にかけて、芸道一筋に生きる男と愛に生きる女を描く波乱万丈の一代記。


戦前から戦後にかけて、「文楽」という私の知らない世界で、芸に生きる人々の粋な様子と、愛に生きる茜のひたむきさに引き込まれました。
たくさん泣いたし、余韻がしばらく消えなそうです。

口下手で根っからの芸人で、なんて奴だと思うこともある徳兵衛だけど、理屈じゃなく茜が恋に落ちる瞬間、盲目にそれを追い掛ける過程を見ていると、何割増しにもいい男に思えてしまう。
実際、一芸に秀でている人、譲れないものがあって自身を磨き続ける人というのは格好いい。
それに、徳兵衛なりに茜に深い愛情があることが垣間見える場面では、きゅんとします。

登場人物は昔ながらの粋な人が多いですが、茜の母が中でも印象深いです。強く賢くたくましい女性。
一冊で人の一生が見える。時代の移り変わりを感じられる。
そんな一冊だからこそ、するりと時間が経過してしまう部分もあるけれど、行間には濃い時間が流れていて、その月日を思うと気が遠くなる程。

世間一般のルールとは違うかもしれないけれど、茜にも徳兵衛にも共通して自分のルールがあって、それを大事に守っているところが心に残っています。
世間に流されず自分ルールを守るためには、強くあらねばならないものですね。
文楽にも興味を持たせてくれる素敵な1冊でした。

★★★★☆

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