「深追い」 横山 秀夫

不慮の死を遂げた夫のポケットベルへ、ひたすらメッセージを送信し続ける女。
交通課事故係の秋葉は妖しい匂いに惑い、職務を逸脱してゆく(表題作)。
鑑識係、泥棒刑事、少年係、会計課長……。

三ツ鐘署に勤務する七人の男たちが遭遇した、人生でたった一度の事件。その日、彼らの眼に映る風景は確かに色を変えた。
骨太な人間ドラマと美しい謎が胸を揺さぶる、不朽の警察小説集――。


三ッ鐘村と揶揄される三ッ鐘署に勤務する7人の警察官が主人公の短編小説7話が収録されています。
心がざらりとする。
一言でハッピーエンドだね!とも、バッドエンドだね、とも言えない。
読んでいる間ずっと心がざらざらして、たまにふっと緩和される。

人間のリアルな醜さとふとした瞬間に見える人間臭さが、絶妙です。
中でもやはり、最後に書かれていた「人ごと」がいいですね。
映像もすごく綺麗に頭に浮かびます。とてもドラマ映えしそう。
この短編が最後に編成されていることで、全体的にいい余韻が残ります。

数ある警察小説の中でも警察の描写が自然に感じるのは、記者経験の長い横山さんだからなんでしょうね。

★★★

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「半落ち」 横山 秀夫

「妻を殺しました」
現職警察官・梶聡一郎が、アルツハイマーを患う妻を殺害し自首してきた。
動機も経過も素直に明かす梶だが、殺害から自首までの二日間の行動だけは頑として語ろうとしない。
梶が完全に“落ち”ないのはなぜなのか、その胸に秘めている想いとは―― 続きを読む

「動機」 横山 秀夫

署内で一括保管される三十冊の警察手帳が紛失した。犯人は内部か、外部か。
男たちの矜持がぶつかりあう表題作ほか、女子高生殺しの前科を持つ男が、匿名の殺人依頼電話に苦悩する「逆転の夏」

公判中の居眠りで失脚する裁判官を描いた「密室の人」など珠玉の四篇を収録。


胸にじいんと残るこの感覚、いいですね。
横山作品の中でも1、2を争うほど好きかもしれない。同じくらい好きなのは「半落ち」
横山さんの描く壮年男性像が好きです。
年齢分の深みがあって、それでいて哀愁もあって。

今回の短編集では、表題作の「動機」と「逆転の夏」がお気に入り。
短編だから短い時間で読めるのにしっかり満足感がある。
こういう作品は貴重です。
全体を通して、人を裁くのは法かもしれないけど、人を救うのは人なのかなと思ったりもしました。
横山さんの作品はなんだかずしんと重量感がある気がします。この重みが心地いい。

★★★★☆

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「顔 Face」 横山 秀夫

“ふけいさんになる”
小さい頃からの夢を叶えた瑞穂。
だが、警察社会で投げられる言葉は冷たい ―「だから女は使えねぇ!」
それでも、似顔絵婦警として犯罪者の心の闇を追いかけていく。

さすがは横山さんというくらい、ミステリーとしておもしろい。
犯人は誰だ、ヒントはないか、と主人公と一緒に頭を悩ませる。
そこに人間劇が入ってくるのだけど、この人間劇の方がいまいちでした。

単純に主人公が好きになれなかっただけなのですが。
「女は嫁に行けばいいが、男はそうはいかない」という認識の人間が大半の県警は、働く女性にとって居心地のいい場所とは言えないでしょうね。
女性に対する扱いの酷さに腹が立ったり、結局甘さが抜けない主人公に憤ったり、登場する女性一人一人に思うところもありました。

私だったらどうするだろう、と気付くと考えてしまう場面がいくつもでてきました。
でも実際は、女性だから、とか、男性だから、とかではないんですよね。
そんなことにも本筋で触れているのがいい。

登場人物では、いい意味で自然体でいられる板垣が素敵。
主人公を好きになれなかった理由は、あまりにもギラギラした正義感ゆえかもしれない。そのくせ、弱くて甘さの残るところとか。少し、もどかしかったのもあると思います。
実話じゃなくても警察のドロドロしたところ、女性同士のギスギスしたところは、見ていてあまりいい気分じゃないですね。それでも、ミステリーとしてはやはり読みどころ満載でした。

★★★☆

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「クライマーズ・ハイ」 横山 秀夫

クライマーズ・ハイとは、興奮状態が極限まで達して恐怖などがマヒしてしまうこと。

高くそびえる衝立岩への挑戦を誓う2人の男、悠木とその同僚安西。

ところが待ち合わせたその日に、御巣鷹山で墜落事故発生。

全権デスクに指名された北関東新聞の古算記者は約束を守れず、もう1人の男も山とは無関係な歓楽街で倒れ意識が戻らないまま。


1985年の日航墜落事故をベースにしており、著書自身も新聞記者としてその事故に立ち会った経験があるからか、非常に臨場感に溢れていました。
理想とする「報道」の追及と、社内の軋轢や虚栄心、その他のしがらみとの戦いなど、迷い悩み苦しむ主人公を一人の人間として身近に感じました。

頭で思うことと心で感じること、期待と現実は往々にして一致しないものなのかもしれませんね。全体の構成が素晴らしく、まるで1つの曲のよう。
一歩間違うと、ただ重いだけになりかねないテーマながら読了感はさほどでもありませんでした。
.
救いとなったのは「人間」。
周りに翻弄されながらも、どこまでも人間臭さを放つ主人公に救いを見出したのかもしれません。
安西の「下りるために登るんさ」の言葉については、当初予想した意味とは違ったみたい。
もっとも悠木の見解だって、彼のいない今正解かどうか確実にはわからないけれど。
安西もまた、主人公に負けず劣らず人間臭い。

そのひと言が言えたなら、この先ずっと、誇れる自分でいられたろうに。
同じ場面を与えられることは二度とない。
その一瞬一瞬に、人の生きざまは決まるのだ。
  (p297)

★★★★

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