「ガラシャ」 宮木 あや子

明智光秀の娘として美しく成長した玉子。主君である織田信長の媒酌で、細川藤孝の子・忠興と華燭の典を挙げ、平穏な日々を送っていた。
だが、突如発生した本能寺の変。実父の犯した罪により蟄居を命じられた玉子は、幽閉先で出会った男に惹かれてしまう。
愛の何たるかも知らず妻となった女を苦しめる恋の業火――。

絶世の美女と謳われた細川ガラシャの人生を描く華麗なる戦国純愛絵巻。

激しい歴史の渦に巻き込まれ、遠い時代にタイムスリップした心があまりの切なさと苦さで痛いです。

運命に翻弄されながらも強く優しく生きたガラシャの気高さに圧倒させられます。
ガラシャに限らず、この時代に生きた人たちは生死が近く、制限が多く、幸せがとても刹那的に見えてそれだけでも苦しいくらい。心の方位磁石を持たないと正気で生き抜くことができない時代ですよね、きっと。

主君殺しという大罪を負った罪人の娘ながら一人生きながらえている罪、
産声すらあげさせることなく冷たい赤子を生んだ絶望感、
いっそ死んでしまえば、いっそ狂ってしまえたらと思いながら日々を送るガラシャの気持ちに寄り添うとこちらまで引きずり込まれてしまいそうに。

そんな暗闇の中に一筋の光となった恋や信仰、それすらも厳しい制限の中にあるんですよね。
史実ではガラシャが亡くなったのは38歳だといいます。その短い一生の中にどれほどの絶望を味わったんでしょうね。
本書の最後の章は、この本の中で唯一の救いでした。

一目会ったときからガラシャを支えると決め慕い続けた次女 “糸”の存在感も大きいです。
真っ直ぐにガラシャしか見えてなかった彼女が大人になるにつれて柔らかくなっていくのも、なんだか愛おしい。
それからやっぱり印象に残っているのはガラシャの夫、忠興。強い想いはプラスに働く分にはいいけど、マイナスに働くと危ない、といういい例ですよね。
そんな彼も母のいない喪失感を抱えながら生きてきたんですものね。

心の平安を保つのはなんて難しいんでしょうね。
気持ちの拠り所があれば、人は狂わずにいられるんでしょうかね。
本書には書かれていませんが、ガラシャの辞世の句が “ちりぬべき時知りてこそ世の中の花も花なれ人も人なれ” だと知り、また胸を打たれました。

本編からはずれますが、信長の妹、市の物語もどこかで読んでみたいし、ガラシャの物語も別の角度からも読んでみたいところです。

来た道を振り返ればそこには自らの屍があるだけだ。己の生きているのは今、このときなのだから。  (p237)

★★★☆

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「砂子のなかより青き草」 宮木 あや子

寂しい。寂しい。寂しい。でも強くなりたい。
清少納言が枕草子に綴った嘘と真実とは?
R‐18文学賞デビューの実力派による平安時代小説の大本命。


年を重ねてから士官をした清少納言。
敬愛する中宮定子様を守るため、ただ強く、強くあろうとする清少納言の姿が少し痛ましくもありました。

先日ちょうど史跡巡りなるものをして、平安の頃の建築物のオブジェなどを見たこともあり、ありありとこの時代に想いを馳せられました。

枕草子といえば、男性に媚びず、定子を心から慕い、時に拗ねたりもする清少納言の人柄が見え隠れするものでしたが、この作品に描かれている清少納言もそんな様子。私が思い描いていたよりも、アクティブで不器用な一面もあったけれど。

それにしてもなんて縛りが多い時代なんだ、と思わずにいられないくらい、政治的にも社会的にも制限の多い時代だったのでしょうね。
清少納言や紫式部もよいけれど、一条天皇と定子のロマンスも読んでみたい。

宮木さんの作品は2つめですが、こういった時代ものも書かれるんですね。枕草子が書かれた背景について知れてよかった。原文で枕草子が読めたらもっと素敵だろうなと改めて感じた次第です。

「良いことが何もないのならば、良いことがあるようにすればよろしいのではと、わたくしは思います」 (p18)

★★★☆

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「孤宿の人(上・下)」 宮部 みゆき

江戸から金毘羅山へ向かう途中にある、瀬戸内海に面した丸海藩。

金毘羅山に向かう途中に置いてきぼりにされた9歳のほう、

流されてきた江戸の罪人加賀殿の下女として働くことになったが、

まるで加賀殿の所業をなぞるかのように毒殺、病死と人が死に出した。


宮部さんの描く江戸の物語が好きです。
身分制度があって、ある程度決まった範囲で暮らす人たちの営み。
その時代に存分に思いを馳せることができました。
表紙の「上・下」のところが兎の形で、随分かわいいなと思っていたら冒頭からうさぎの話がでてきましたね。

今よりも情報入手手段も少なく、限られた範囲で暮らす人たちにとって、噂はすごい伝染力を持つんでしょうね。だからこそ、利用しようと思えば利用できることも、頼ろうと思えば頼れるところもあるんでしょう。

噂は尾びれ・背びれが付きやすいけど、それでも人から人に何かが伝わるっていいなと少し思いました。
ネットが普及してくにしたがって「face to face」って死語になりつつあるような気もします。

その人の感情が動くところ、そしてその動いた感情に対してとる行動は人それぞれですよね。
それには何を一番に守りたいかという優先順位が自分の中で働くんだろうけど、なんだか苦い思いになるものが多かったです。
きっと切腹があるようなこの時代だからこそ、守るべきものが格式や家柄、伝統になりえたんだろうな。正解があることじゃないから難しい。

だったらどう動いただろうと宇佐と一緒に考えながら読みました。
わりと淡々と物語が進んだので、まさかラストで泣くとは思いませんでしたが結構泣きました。
段々終盤になるにしたがって嫌な予感が頭をもたげ、苦い気持ちで読み進めました。わかっていても、もうそうなる以外の道はない、と知って進むのは苦しいですね。

ボタンが掛け違ってしまったかのような、些細なことがこんな大事件を巻き起こしてしまったことを思うとなんとも言えない気持ちになりますが、ほうの存在が、そしてその周りにいる人たちの優しさが救いとなりました。
不幸だけど幸福なほう。思い返してもちょっと泣けそうです。

「信じれば、嘘も真実になる。嘘を嘘と知りつつ信じたふりをするのは辛いが、本当に信じてしまえば、ずっと楽だ」  (p187)

★★★★

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「風よ、万里を翔けよ」 田中 秀樹

隋王朝の盛衰を軸に、一人の少女が強く生きる様子を描いた物語。
少女の名は木蘭。老体で身体の不自由な父に代わって従軍します。


ファンタジーだと思って本を開いたので、最初は違和感でいっぱいでした。
三国志や封神演義を思い出すような、史実に沿ったわりと骨太な歴史小説でした。
名前こそ知っていたもののそれ以上は無かった、隋の文帝や煬帝について触れられたのもよかったですし、大国である隋の盛降がわずか40年にも満たない様子には感慨深いものがありました。

「大きな流れの中で、自分個人はどう生きていくのか」といった深いテーマも豪勇たちの間から垣間見えた気がします。
恋愛描写が特にあるわけではないのですが、ずっと男装をしていた木蘭が初めて女性の姿で相方の賀廷玉と会う場面は、少しきゅんとくるものがありました。
京劇にもなっていたり、ディズニー映画(「ムーラン」)にもなっていたりすることからも、この時代を力強く生きた女英雄、木蘭の人気がわかるようです。

こういった他国の物語を日本語で書いてくれる人がいることに、感謝の気持ちでいっぱいです。
本当はその国の言語で読めるのが一番だと思うのだけど、なかなか難しいですものね。

★★★☆

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「破三国志3」 桐野 作人

二巻に続き、馬超がカッコよかったです。
彼の深い優しさはどこからくるものなのか、最後の最後まで大好きでした。
他には厳顔と張遼の戦いが気に入ってます。厳顔の意を決した散り様と、彼の死後、張遼の義を守る態度は、まさに漢といった感じがしました。

ただ最後がすっきりしない終わり方だったのが少し残念です。
もともと歴史の一部を切り抜いた物語なのだからそんなに気持ちよく完結するものじゃないのかもしれないんだけど、最後まで勢いを落とすことなく終わってくれたら嬉しかった気はします。
が、全体的にはとても面白かったです。

★★★★☆

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「破三国志2」 桐野 作人

なんといってもこの巻の見所は蜀と魏の駆け引きだと思うんです。
互いに相手の裏をかこうと戦略を練る様子は見ててこの上なく面白いです。

さすがは孔明、広い視野を持った自由な発想の計略には唸るものがあります。
呂布にも迫る勢いでお気に入りなのが馬超。
基本的に強い人・女性を大切にする人・義を重んじる人、が好きみたいです。

曹仁も好きだったんですが、史実では城攻めでこの曹仁の位置にいるのは関羽だったとか。
史実がほんとうやむやです。一度ちゃんと読んでみなくては。

★★★★☆

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「白衣の騎士団」 コナン・ドイル

コナン・ドイルの作品といえばホームズ物語しか知らなくて、ミステリー作家だとばかり思っていたら違ったんですね。
SF、冒険、怪奇、海洋や医学にまで手がけていたのには驚きました。
歴史小説もその内の1つでドイルが特に力を入れていたものらしいです。
この本を書き上げるのに参考にした文献は60冊にもなるとか。
それだけあって凄く楽しめました。

騎士道の元に繰り広げられる戦いは私にとって真新しいものでした。
自分の栄光や賞賛の為ではなく、貴婦人の名誉そして騎士道の賞揚のための戦いは激しさの中に高尚なものを感じさせてくれました。
“強き者を恐れず、弱き者に謙虚になれ” という騎士道にすっかり魅入られました。
数ある戦いの中でも私が最も気に入ってるのがカスティリャ軍との戦いでした。
白衣の騎士団の騎士400名ほどに対し、相手は6万。
死力を尽くしての壮絶な戦いは後々まで語り継がれたといいます。

サー・ナイジェルの「ともに生きるか、ともに死ぬかだ!」と最後まで戦う姿には感動、というより惚れますね。
登場人物は誰もがとても魅力的で、最初は風変わりでただの乱暴者だと思ってたジョンも最後では大好きな人の1人になっていました。
この作品は史実にそって書かれたらしいんですが、これだけで充分にこの時代に興味を持ちました。
姉妹篇ではサー・ナイジェルの青年時代の話があるらしいです。

★★★★☆

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