「奇跡のリンゴ」 石川 拓治

リンゴ栽培には農薬が不可欠。
誰もが信じて疑わないその「真実」に挑んだ男がいた。
やがて収入はなくなり、どん底生活に突入。
壮絶な孤独と絶望を乗り越え、ようやく木村が辿り着いたもうひとつの「真実」とは ―


奇跡のリンゴ。
置いておいても腐ることなく、枯れるように小さくしぼみ、甘い香りを放つ。
絶対に不可能と言われた、農薬を使わないリンゴ栽培。
そこに挑戦した木村さんのノンフィクション小説です。

奇跡のリンゴの話は、何度か聞いたことがありました。
実際に読んでみて、その壮絶な戦いと辿りついた境地に思わず涙が出ました。なんて、孤高な挑戦なんだろう。
自然を切り離して考えることができないように、人も人に生かされてる。
当たり前に思えるけど、心からそう思える境地に辿り着ける人はそういないんじゃないでしょうか。

表紙の木村さんの写真にも心が洗われます。
これは一種の哲学本でもあるんじゃないかと思います。
知識や経験から解き放たれて初めてたどり着く境地。
ひとつのことに夢中になってバカになれ。木村さんからのメッセージだとすっと心に入ってきますね。プロとはこういう人のことをいうんだ、と心を動かされました。
奇跡の詰まった一冊。
また読み返したい。

リンゴの木は、リンゴの木だけで生きているわけではない。
周りの自然の中で、生かされている生き物なわけだ。人間もそうなんだよ。
人間はそのことを忘れてしまって、自分独りで生きていると思っている。そしていつの間にか、自分が栽培している作物も、そういうもんだと思い込むようになったんだな。
農薬を使うことのいちばんの問題は、ほんとうはそこのところにあるんだよ。
  (p167)

★★★★★

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「容疑者Xの献身」 東野 圭吾

天才数学者でありながら不遇な日々を送っていた高校教師の石神は、一人娘と暮らす隣人の靖子に秘かな想いを寄せていた。
彼女たちが前夫を殺害したことを知った彼は、2人を救うため完全犯罪を企てる。
だが皮肉にも、石神のかつての親友である物理学者の湯川学が、その謎に挑むことになる。
このミス1位にも輝いた直木賞受賞。


何度読んでも、いいものはいい。
大好きな小説の1つです。内容を忘れた頃に読んでは泣いて、やっぱり良本だとしみじみ感じます。
孤高の天才同士の知の掛け合いや友情も見処ですが、ミステリーのトリックや何よりも深い愛情に感動せずにいられません。

最初は動機にしてもトリックにしても、どうして??と思うことばかりだったのに、最後はすんなり全てを納得できてしまう。
気付くと登場人物に深く共感してしまう、というのは東野さんの筆力故でしょうか。本当に彼の小説はミステリーの枠組みを越えて人間描写が素晴らしいですよね。

読み終わった後も頭の中で再現されるシーンがあまりにも多くて、苦しくも切なくもなります。
人が生きる意味、生かされてる意味、考えさせられますね。そして、何気ないその人の行動が誰かを闇の底から救う、ってことはありますよね。
その時に生まれる感謝の念や世界が色付く様子を、想像するだけで涙が出てしまう。
石神さんみたいな数学の先生、いたらとても素敵。

私も子どものどうして?に答えられる大人でありたいし、そうなれるように成長していきたい。
誰にでも胸を張っておすすめできる一冊です。

人は時に、健気に生きているだけで、誰かを救っていることがある。  (p386)

★★★★★

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「永遠の0」 百田 尚樹

「娘に会うまでは死ねない、妻との約束を守るために」
そう言い続けた男は、なぜ自ら零戦に乗り命を落としたのか。終戦から60年目の夏、健太郎は死んだ祖父の生涯を調べていた。
天才だが臆病者。想像と違う人物像に戸惑いつつも、1つの謎が浮かんでくる。
記憶の断片が揃う時、明らかになる真実とは。


解説で児玉さんが、「本を閉じたときには、なにやらハンマーで一撃を喰らったような衝撃」と述べていましたが、まさにそんな感じです。
重い余韻が残ります。 最初は読み進めるのが辛くて、零戦の描写ではしょっちゅう鳥肌を立たせ、最後は大泣きしながら読み終えた小説でした。 続きを読む

「きよしこ」 重松 清

重く、やさしい語り口調が最初から私の心を揺さぶりました。
これは、「きよし」という少年の物語です。
吃音があって、すらすら喋れない少年のお話。

胸がざわざわするのに、じんわり温かくなって、涙が出ます。
とにかく、優しい。
悔しくて悲しくてずきずきする出来事がたくさんあるのに、それを見守る何かがとても優しい。
それは、もしかしたらタイトルにある「きよしこ」なのかもしれない。
「きよしこ」は、大人になったきよしのようでも、月の妖精のようでも、ただの夢の人物のようでもある不思議な存在。

最初に「君を励ましたり支えたりするものは、君自身の中にしかない」とあるように、何か教訓めいたことを言ったり、批判したりすることは一切ない。
それでも少年の物語を通して、はっとするような気付きが散らばっています。
中でも「伝える」ということに関しては特にたくさん。
それにしても重松さんは、悲しみや悔しさの表現がすごく上手い。
ああわかるよその感じ、としょっちゅう胸が痛みました。

個人的には、ワッチのエピソードが小さな棘のように長く痛みを残しました。
そして主人公を自分と同じ名前である「きよし」にしたところにまた、強いメッセージを感じました。
「それがほんとうに伝えたいことだったら・・・・・・伝わるよ、きっと」
最後まで泣きたくなるくらいに温かい小説でした。

<追記>
こちらのコラムで重松さんが書かれていますが、「きよし」のモデルはやはり重松さん自身みたいです。このコラム自体も「きよしこ」同様、すごく温かみのある言葉に溢れており改めて重松さんの人柄を感じられた気がします。

「誰かになにかを伝えたいときは、そのひとに抱きついてから話せばいいんだ。抱きつくのが恥ずかしかったら、手をつなぐだけでもいいから」  (p43)

「ええか。今日は一生のうちでたったいっぺんの今日なんじゃ、明日は他のいつの日とも取り換えっこのできん明日なんじゃ、大事にせえ。ほんま、大事にせえよ、いまを、ほんま、大事にしてくれや・・・・・・・」  (p149)

★★★★☆

「レインツリーの国」 有川 浩

「忘れられない本」を通して出会った2人の物語。
奇跡的に繋がった1本の糸。
主人公と一緒にわくわくしたり、泣いたり、ほっとしたり。
等身大の2人が織りなす恋愛物語にすっかり惹きこまれました。

伸がメールで書いている「考え方や感じ方は全然違うところがあって、その似てるのにズレてるところがめっちゃ面白い」というのこそ、恋愛の醍醐味だよね、と頷きつつ思いました。
その人の辛さというのは本当の意味ではその人しかわからない。
その辛さ故に傷ついてきたからこそ、大好きな人からは特に傷つけられたくなくて自分を守ろうとするあまり相手を傷つけてしまう。恋愛ではよくあることに思います。

相手との距離が近くなる恋愛において、それは相手への信頼の証でもあり、甘えでもあるもの。
甘えることや我儘がいけないんじゃなくて、大事なのは二人のバランス。
頼ってもいいけど、どちらか一方が我慢しっぱなしな関係は先が見えてる。
二人のひたむきさと前向きさが微笑ましく感じました。

それと、あとがきで初めて有川さんが女性だと知ってびっくり。
名前からずっと男性だと思ってました。
そしてこの本に聴覚障がいのある人が登場するというのは知っていたのですが、思っていた以上に深いところまで踏み込んだ内容で驚きました。
またいつか読み返したくなるであろう、とてもいい本でした。

ハンデなんか気にするなって言えるのは、ハンデがない人だけなんです。それも、私に迷惑かけないならあなたにハンデがあっても気にしないよって人がほとんどだと私は思います。  (p99)

★★★★☆

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「幸福な食卓」 瀬尾 まいこ

「父さんは今日で父さんを辞めようと思う」
冒頭の1行です。
瀬尾さんはいつも、「なになに、どういうこと?」と思わせ、読者を惹きつけるのに長けている気がします。
父さんを辞めた父さん。
独り暮らしを始めた母さん。
勉強もスポーツも万能なのに、大学に行かなかった兄。
ちょっと変わった登場人物が織りなす優しい物語でした。

瀬尾さんの書く男の子が魅力的で、たびたびキュンとしてました。
特別描写が詳しいわけでもないはずなのに、登場する食べものはどれもとても美味しそう。
それは食べものがいつも人の手を介して登場するからなのかな。
タイトルの指す「幸福な食卓」はきっと、家族で囲う食卓のことなのでしょうね。
人の優しさに胸がぽかぽか。

そんなに感情移入していないと思ったのに、意外にも結構泣きました。
12個のシュークリームで、再び心がぽかぽか。

「すごいだろ?気付かないところで中原っていろいろ守られてるってこと」   (p58)

★★★☆

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「涙の数だけ大きくなれる!」 木下 晴弘

再読。停滞していると感じた時にいつも読んでいます。
ものごとの本質を見ている、いわば、発想の転換ができる本です。
勉強に行き詰った受験生、仕事に不満を抱える社会人にとくにお勧めです。
あるレジ打ちの女性の話。
あるパチンコ店の話。
受験合宿の話。
泣けます。

わかっているつもりでも忘れがちな、目の前のことに真摯に取り組むことや支えてくれる人への感謝の気持ちを思い出させてくれます。
いくつものエピソードが書かれていますが、本の1番最初にあるのは戦時中のアフガニスタンの子どもの話。
「今、一番望んでいることは何?」そう子どもたちに尋ねた時、
返ってくる答えは「平和」でも、「おなかいっぱい食べられること」でもなく、「命の保証」でもない。
「学校にいきたい・・・学校で友達と勉強したい」という願い。

この本は決して「周りも頑張っているんだから頑張れ」というような押しつけでもなければ、「あなたは十分幸せなんだよ」なんていう慰めでもありません。
ただ、見る視点を変えるだけでものごとがこんなに変わって見えるのかと驚きます。

あなたの夢がかなうということは、あなたが自分らしく信念を貫き通して生きた証しでもあるのです。

やって当たり前のことを、当たり前と思えないほどの情熱を傾けて行う、それを努力と言うんだよ。

大きな道があって、それが本当に君の歩いて行きたい道であるなら、その道を歩むことは絶対にあきらめてはいけない。もちろん、その道をどう歩むかという方法に関して、あるやり方をとってうまくいかない時は、それをやめて次の方法をとってみるのはいい。肝心なのは、あくまでその道を行くこと。道を捨てないことなんだ。  (p47)

★★★★☆

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「時の輝き」 折原 みと

再読。たまたま古本屋で見かけて、購入。
懐かしいなあ。。。20年とまではいかなくても、10年以上ぶり。
小学生の頃大好きだった折原さんの本。

絵も描けて、文も書ける方なのは知ってたけど、料理本やCDまで出していたなんて。
文体はティーンズ向けだけあって、漫画のようにさくさく読めます。
「KISS」とわざわざ英語にするところとか、一部気恥ずかしさを感じたりして、ああ私も大人になったんだな、なんて思いながら読んでいたので、
まさか、泣くとは思わなかった。

読み始めから「オチも予想できるしね」、と軽く構えていたらその前で既に泣いてしまった。
人を泣かせるのに、文体がどうとか関係ないんだな、と思いました。
恭ちゃんのお父さんがとても素敵です。お父さんだけじゃなくて、登場人物がみんなキラキラしてます。

大人ももちろん読めるけど、児童文学に分類したい本。
時間や命の大切さを噛み締めることができる1冊です。

どうしても超えなければならない高いバーがあった時。
目をつぶってちゃ、はじまらないって。

立ちすくんでても、しょうがないって。 そんな時でさえ、笑って走り出すことができるって、 シュンチが、あたしに教えてくれた。   (p196)

★★★★☆

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「ハッピー・バースデー」 青木 和雄

「あすかのせいだわ。あすかを妊娠した時から、わたしの計画が狂い始めたのよ。あの子は疫病神だわ」「ああ、あすかなんて、本当に生まなきゃよかったなあ」
静江は軽い口調で、あすかの存在を完全に否定した。
あすかの心は火にあぶられるようにひりひりと痛む。
―― 助けて!だれかあすかを助けて! 続きを読む

「西の魔女が死んだ」 梨木 香歩

まいは中学に進んでからまもなく、季節が初夏へと移り変わるひと月あまりを西の魔女のもとで過ごした。西の魔女ことママのママ。
まいはおばあちゃんから魔女の手ほどきを受ける。
魔女修行の肝心なかなめは、何でも自分で決めること。

女の子って本当に独特の付き合い方をする。
クラスには必ず仲良しグループが幾つかあって、その中にいれば安全で快適だけど、そこから外れるとそうはいかない。
仲良くなるために興味のない話題に一生懸命相槌を打つとか、行きたくもないトイレについて行くとか、そういうものがあさましく、卑しく思えてきたというまいの気持ちはとてもよくわかります。
一匹狼で突っ張る強さを養うか、群れで生きる楽さを選ぶか。
その選択は簡単なものではないはずです。

それに対して言ったおばあちゃんの言葉は、私が常に思っていることでもありました。
その時々で自分が楽に生きられるように生きればいい。そう思っているからこそ、私の今の友達関係には無理がない。

ラストの演出には思わず涙が出そうになりました。
本当に素敵なおばあちゃん。
彼女は魔女だけど人間であって、だからこそ欠点もあります。
そんな人間味溢れたおばあちゃんがまいに与えたものはとてつもなく大きなものだったように思います。

「わたし、やっぱり弱かったと思う。一匹狼で突っ張る強さを養うか、群れで生きる楽さを選ぶか・・・・・・」
「その時々で決めたらどうですか。自分が楽に生きられる場所を求めたからといって、後ろめたく思う必要はありませんよ。サボテンは水の中に生える必要はないし、蓮の花は空中では咲かない。シロクマがハワイより北極で生きるほうを選んだからといって、だれがシロクマを責めますか」

★★★★

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