「サファイア」 湊かなえ

あなたの「恩」は、一度も忘れたことがなかった―「二十歳の誕生日プレゼントには、指輪が欲しいな」。
わたしは恋人に人生初のおねだりをした…(「サファイア」より)。林田万砂子(五十歳・主婦)は子ども用歯磨き粉の「ムーンラビットイチゴ味」がいかに素晴らしいかを、わたしに得々と話し始めたが…(「真珠」より)。

人間の摩訶不思議で切ない出逢いと別れを、己の罪悪と愛と夢を描いた傑作短篇集。

たしかな闇と、光がある。

素敵な装丁から、発売以来気になっていた1冊。
湊かなえさんによって綴られた、宝石の名前を冠したタイトルが並ぶ短編集です。 続きを読む

「贖罪」 湊 かなえ

15年前、静かな田舎町でひとりの女児が殺害された。
直前まで一緒に遊んでいた四人の女の子は、犯人と思われる男と言葉を交わしていたものの、なぜか顔が思い出せず、事件は迷宮入りとなる。

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娘を喪った母親は彼女たちに言った──あなたたちを絶対に許さない。
必ず犯人を見つけなさい。それができないのなら、わたしが納得できる償いをしなさい、と。
十字架を背負わされたまま成長した四人に降りかかる、悲劇の連鎖の結末は。


小学5年生の頃、直前まで一緒にいた女の子が強姦殺人にあった。
泣き叫ぶ母親がその時一緒にいた4人の女の子にかけた呪縛は、何年も彼女たちを苦しめていた。

暗く、おどろおどろしい。
救いを求めてページをめくるけれど、めくってもめくっても救いがない。
みんな少しずつ、あるいは大きくズレているから違和感や不快感がある。それはホラーを読んでいる時の感覚にも似ていて、みんな少しずつ狂気をはらんでいて怖い。
罪を償うというのは、難しい。
社会的に償うのでもなければ、自分自身に償うわけでもなく、第三者を意識して償いをした時に、一体何をすれば正解なのかなんて絶対にわからないですよね。

物語はエンターテイメントだとわかっていても、今作は全体的にリアリティのなさが気になりました。
身勝手な大人が、あんな挑発的な話し方の女性相手に黙って長時間話を聞くはずがない。途中きっと野次が飛ぶでしょう。席を外してしまうでしょう。
それとも、それを超えるほどの凛とした空気だったのか。

これが黒沢清監督のもとドラマ化されている話が最後に収録されていました。
普段あまり映像化に興味をもつことはないのですが、これはぜひ観てみたい。

★★★

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「告白」 湊 かなえ

我が子を校内で亡くした女性教師が、終業式のHRで犯人である少年を指し示す。

ひとつの事件をモノローグ形式で「級友」「犯人」「犯人の家族」から語らせ、真相に迫る。

デビュー作でありながら、「週刊文春ミステリーベスト10」1位、本屋大賞1位を受賞したベストセラーの文庫化。


水面に投げられた石のような本でした。
話題作として何度も耳に入りながら、なかなか手を伸ばせなかった本です。読み終わるのはあっという間。
それでいながら、読了後はなかなか鳥肌が消えませんでした。

「聖職者」「殉職者」「慈愛者」などのタイトルのもと、犯人やその母親、級友がたんたんと語る、あるいは綴る物語でした。
真実はひとつでも、その見え方、捉え方は人それぞれで、むしろ見えない部分こそが著者の書きたかったものなんじゃないかと思ったほど。
和紙を重ねるみたいに、話を進めるごとに色濃く事件の全貌が見えてきます。

読んでいて、きっと先には救いなんてないんだろう。
そう思うのに、読み進めるのを止めることができず。もしかすると、見方によっては救いがあるのかもしれないけれど。
いたるところにトゲが散りばめられていて、読んでいてチクリと痛い。

どなたかがレビューで “弱っている時に読むものじゃない” と書かれていたけれど、本当にそのとおりですね。
湊さんの次作は、ぜひ弱っていないときに読んでみよう。

人間の脳はなんでもがんばって覚えておこうと努力するようにできているけれど、何かに書き残せば、もう覚える必要はないのだ、と安心して忘れることができるから。楽しいことは頭に残して、つらいことは書いて忘れなさい。  (p125)

★★★★

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「夜行観覧車」 湊 かなえ

高級住宅地に住むエリート一家で起きたセンセーショナルな事件。
遺されたこどもたちは、どのように生きていくのか。
その家族と向かいに住む家族の視点から、事件の動機と真相が明らかになる。


「家族」がテーマの物語。
舞台は高級住宅地、ひばりヶ丘。
エリート医師である父親を殺したのは、母親だった。
センセーショナルな事件を3つの家族の視点から追う。

「家族」だから求めてしまう。
「家族」ゆえに追い詰められる。
「家族」によって守られる。
家族って。

外から見えるものと、その実情が違うのはどこの家庭も同じことで、それぞれの家にはそれぞれの問題を抱えている。
ひばりヶ丘にできるであろう巨大な観覧車になぞって、見える景色が変わっていく様子がうつくしい。人は変われるし、家族だって変わっていける。

止めてくれる人がいるかいないか、それに左右される場合の方が多いのではないだろうか。犯罪を起こさない人間が決してえらいわけではない。  (p318)

★★★

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