「肩ごしの恋人」 唯川恵

欲しいものは欲しい、結婚3回目、自称鮫科の女「るり子」。
仕事も恋にものめりこめないクールな理屈屋「萌」。性格も考え方も正反対だけど二人は親友同士、幼なじみの27歳。
この対照的な二人が恋と友情を通してそれぞれに模索する“幸せ”のかたちとは―。
女の本音と日常をリアルに写して痛快、貪欲にひたむきに生きる姿が爽快。
圧倒的な共感を集めた直木賞受賞作。

恋愛小説の旗手が描く爽快な1冊です。

さらりと爽やかな読み心地。フツーの枠に囚われない清々しさに、読んでいてすっきりします。直木賞受賞作でもあります。 続きを読む

「王妃の離婚」 佐藤 賢一

1498年フランス。時の王ルイ12世が王妃ジャンヌに対して起こした離婚訴訟は、王の思惑通りに進むかと思われた。
が、零落した中年弁護士フランソワは裁判のあまりの不正に憤り、ついに窮地の王妃の弁護に立ち上がる。
かつてパリ大学法学部にその人ありと謳われた青春を取り戻すために。正義と誇りと、そして愛のために。手に汗握る中世版法廷サスペンス。

第121回(平成11年度上半期) 直木賞受賞。

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「何者」 朝井 リョウ

就活が始まる。
自分を生き抜くために必要なことは、何なのか。
この世界を組み変える力は、どこから生まれ来るのか。
影を宿しながら光に向いて進む、就活大学生の自意識をリアルにあぶりだす、書下ろし長編小説。第148回 直木賞受賞作。

心が一気に大学時代まで引き戻されて、ざらざらザワザワした気持ちで読み進めました。 続きを読む

「小さいおうち」 中島 京子

今はない家と人々の、忘れがたい日々の物語。
昭和初期東京、戦争の影濃くなる中での家庭の風景や人々の心情。

ある女中回想録に秘めた思いと意外な結末が胸を衝く。

第143回 直木賞受賞作。

戦前から戦中にかけて、ちいさな赤い屋根の洋館で女中奉公をしていたタキさん。
あまり馴染みのない「女中」というキーワード。
徒弟制度・丁稚奉公等と同様に今は風化してしまったものですが、情のある主従関係がいいですね。
現代と過去を少しずつ行き来しながら、次第に物語は古き良き時代へ舞台を移します。

物語の最初でも出てくるエピソードですが、「優れた女中は、主人が心の弱さから火にくべかねているものを、何も言われなくても自分の判断で火にくべて、そして叱られたら、わたしが悪うございました、と言う女中なんだ」という先生の台詞がずしりと残ります。

どこか遠い世界の物語を読んでいるようでいて、DNAが懐かしがっているような、不思議な不思議な読了感でした。
お年寄りが当時の時代を偲ぶ気持ちが、すこしわかるような気がします。

男女相愛の道程を辿るのは人類の第一の本道であるにちがいない、けれどもなお第二の路はあるはずだ。そしてまた同時に第三の路も許されていいはずだ。
相愛の人を得ずして寂しいながらも何か力いっぱい仕事をしていゆく人たちのためにこの路はやはり開かれてあるわけだ。第一の路をゆく人も第二の路をゆく人も第三の路をゆく人も、各々その道を一心に辿ってそれによって。
己を生かし切り善く美しく成長させて宇宙へ何か献げものをしたい気持で歩めばいいのだ、この三つの形をとって人間は生涯を送るより方法はないのだと思う。
(p181)

★★★★

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「蜩ノ記」 葉室 麟

家老により、切腹と引き替えに向山村に幽閉中の元郡奉行戸田秋谷の元へ遣わされた檀野庄三郎。

秋谷は七年前、前藩主の側室との密通の廉で家譜編纂と十年後の切腹を命じられていた。

だが、秋谷の清廉さに触るうち、無実を信じるようになり…。

凛烈たる覚悟と矜持を描く感涙の時代小説。

第146回直木賞受賞作。


時は、江戸時代。
前藩主の側室との密通の廉で家譜編纂と10年後の切腹を命じられた秋谷が暮らすのは、九州の山間の村。
そこに遣わされた庄三郎の目を通して感じる清逸な世界観と美しい自然描写に心が洗われました。

10年後の切腹の命、すなわち余命は10年。
それも、病で命を落とすのではなく、自らの手で愛する家族のいる世界を後にするのは想像を絶する痛みでしょう。
その葛藤が書かれているのかと思いきや、主人公は清廉な人柄で、心静かに穏やかに、確固たる信念を持って生きていました。

限られた生をどのように生きていくか、人間らしく、親らしく、夫らしく生きるとはどういうことか、常に心に抱きながら生きているからか、主人公の人との関わりのなんと深くやさしいことか。
自分の生き方について改めて考えさせられました。

ひとは心の目指すところに向かって生きている。
心の向かうところが志であり、それが果たされるのであれば、命を絶たれることも恐ろしくはない。
私もいつか、そんな風に思えるんだろうか。

疑いは、疑う心があって生じるものだ。弁明しても心を変えることはできぬ。心を変えることができるのは、心をもってだけだ。 (p154)

★★★★☆

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「容疑者Xの献身」 東野 圭吾

天才数学者でありながら不遇な日々を送っていた高校教師の石神は、一人娘と暮らす隣人の靖子に秘かな想いを寄せていた。
彼女たちが前夫を殺害したことを知った彼は、2人を救うため完全犯罪を企てる。
だが皮肉にも、石神のかつての親友である物理学者の湯川学が、その謎に挑むことになる。
このミス1位にも輝いた直木賞受賞。


何度読んでも、いいものはいい。
大好きな小説の1つです。内容を忘れた頃に読んでは泣いて、やっぱり良本だとしみじみ感じます。
孤高の天才同士の知の掛け合いや友情も見処ですが、ミステリーのトリックや何よりも深い愛情に感動せずにいられません。

最初は動機にしてもトリックにしても、どうして??と思うことばかりだったのに、最後はすんなり全てを納得できてしまう。
気付くと登場人物に深く共感してしまう、というのは東野さんの筆力故でしょうか。本当に彼の小説はミステリーの枠組みを越えて人間描写が素晴らしいですよね。

読み終わった後も頭の中で再現されるシーンがあまりにも多くて、苦しくも切なくもなります。
人が生きる意味、生かされてる意味、考えさせられますね。そして、何気ないその人の行動が誰かを闇の底から救う、ってことはありますよね。
その時に生まれる感謝の念や世界が色付く様子を、想像するだけで涙が出てしまう。
石神さんみたいな数学の先生、いたらとても素敵。

私も子どものどうして?に答えられる大人でありたいし、そうなれるように成長していきたい。
誰にでも胸を張っておすすめできる一冊です。

人は時に、健気に生きているだけで、誰かを救っていることがある。  (p386)

★★★★★

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「悼む人」 天童 荒太

第140回、直木賞受賞作。
「悼む」とは、故人に想いをはせる行為のこと。
死者を悼み、旅を続ける青年。
死期が迫り、懸命に生きる母。
死を通して見えてくる、愛と生のかけがえのなさを描く――


天童さんの本はおそらく3冊目。純粋な優しさを感じる文体が好きです。
「悼む人」は、ものすごく重いよ。かなり。と、読んだ人たちに言われ、なかなか手が伸びなかったのですが、ようやく読めました。
物語の中盤、美汐が家で子どもを産むと決めた前後からわりと泣き通しでした。読んでて、ちょっとしんどかったです。

「悼む」の意味はわかっても、「悼む人」とは・・・ 一体何?
と思って本を開くと、そこには分け隔てなく死者を悼んで日本中を旅する青年の姿がありました。
悼むポーズを想像すると、私だったらお近づきになりたくないと思うこと間違いない。
「誰に愛され、誰を愛し、どんなことに感謝されていたか」なんて突然聞かれたら、新手の宗教か何かですか?と思ったに違いない。

最初は違和感でいっぱいでしたが、単純に愛のため、などではなく、そうせざるを得ない強迫観念に突き動かされての行動だと知り、大分見方が変わりました。
たくさんの死者を悼む旅の描写から、いわゆる「死」に焦点を当てた物語なんだとはじめは思いました。

すべて読み終えた今は、さまざまな愛の形を描いたものだと気付きます。
親子の愛、男女の愛、家族の愛などなど、死を通して描きたかったのはこちらの方なんじゃないかなと。

賛否両論あるかもしれないけど、私は巡子の静人に対する愛情がすごく素敵だと思います。
たとえ死に目に会えなくても、相手を尊重する愛情。
それから、倖世の朔也に対する愛情も、わかるような気がします。
愛する人から愛されたいという気持ちは、たとえ相手を失うことになったとしても、抑えがたいものだと思うから。自分に自信がなければ無いほどに。

巡子のターミナルケアの描写はそれにしてもリアルで、読んでいて怖かった。死に向かう道はとても孤独で。
ごく普通に生きていたらまるで不必要に思える「悼む人」だけど、死の側から見つめると、看取られないような死に方をする側から見ると、まるで救いの光のようにすら感じます。
本人は宗教じゃない、と否定するけれど(実際、既存の宗教にのっとってるわけではないので、それは正しいのだけど)、宗教というものは、教祖というものはこうして生まれていくのかな、とも思いました。

静人の生き方は、正直しんどい。
だけど、それで救われる人もいるんでしょう。
彼なりのルールがきちんと感じられるところも、軸のブレなさを物語っているような気がします。人だけど、人に非ざる存在のような。
彼が母親の死を知った時に、彼は人になるか、あるいはもう人に戻らない道を選ぶか、岐路に立たされるのかもしれません。恋は最終的に彼を人には戻してくれなかったから。
それにしても、やっぱりずしんと重かった。

読まなきゃよかった、なんて思わないでもないけれど、この本を読んだことで少し優しく強くなれた気もします。
約10年かけて書かれた直木賞作品に偽りなし、という感じです。

★★★★

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「まほろ駅前多田便利軒」 三浦 しをん

直木賞受賞。
東京のはずれ、「まほろ市」で便利屋を営む多田。
そこに転がり込んできた高校の時の同級生・行天。
さまざまな依頼と、個性的な人たちとの物語。


読んだ時のテンションが、この本のどこか気だるい感じとマッチして心地よかったです。
夕暮れを見る時の焦燥感や切なさに似たようなものがありました。
一言で黒か白か言えないような、曖昧だけど確かに存在するものがうまく描かれていて、とても楽しめました。とにかく読みやすい。

多田と行天の関係が好き。友達じゃないし、仕事仲間とも少し違う。
だけど目の前で確かに繋がっている関係。
映像化しやすそうな作品だなと思ったら、既に映画化もコミック化もされてるんですね。
単行本でも話の間にイラストがあったけれど、行天が思ったよりもカッコよくてびっくりしました(失礼)。個人的な好みとしては星くんが好きです。

裏表のギャップがいいですよね。
たまに台詞が心に刺さります。
装丁の色や写真がうまい具合に世界観を表していると思いました。

だれかに必要とされるってことは、だれかの希望になるってことだ。  (p100)

不幸だけど満足ってことはあっても、後悔しながら幸福だということはないと思う。  (p288)

★★★★

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「対岸の彼女」 角田 光代

直木賞受賞作。
高校生の時に読んでいたならきっと、惹かれたのは「大切なものは1個か2個で、あとはどうでもよくって、こわくもないし、つらくもないの」というナナコの言葉だったと思います。
高校生の頃は、とても世界が狭かったと思います。
その分密度が濃くて、人間関係にも過敏になっていた時期。
それだけあって、クラスの空気を読む力を持たない女性は少ないんじゃないでしょうか。
1人でいるのはまったく平気だけど、集団の中で孤立するのはとても居心地が悪くて、つい守りに入っていた自分がいた気がします。

今一番共感できたのは、修二とのくだりかもしれません。
たとえば、小夜子が感じた
「家の中は整頓され、手作りの料理が並び、引き出しにはアイロン済みの衣類が入っているその状態が、修二にとっては当然の、ゼロ地点なのだ。何かひとつでもおかしなことがあればそれはただちにマイナスになる」
というくだり。

やって当たり前のことかもしれないけど、認められたい気持ち。
家事は、まじめにやると結構大変なんだけどな。
働く母と専業主婦、集団に所属する高校生と自由奔放な高校生、子持ち既婚者と独身女社長。

まったく違う立場でいながら、通ずるもののある存在。
赤毛のアンがランプで合図をしていたように、対岸にいてもわかりあえる。
違うことにも価値があるんですよね。

ひとりでいるのがこわくなるようなたくさんの友達よりも、ひとりでいてもこわくないと思わせてくれる何かと出会うことのほうが、うんと大事な気が、今になってするんだよね。  (p97)

★★★☆

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