「スタートライン」 小川糸 他

彼の浮気に気づいた花嫁、急に大人になった少女、別れ話をされた女、妻を置いて旅に出た男…。
何かが終わっても「始まり」は再びやってくる。

「変わりたい」「やり直したい」と思った瞬間、それがあなたのスタートライン。
恋の予感、家族の再生、衝撃の出会い、人生の再出発―。
日常に訪れる小さな“始まり”の場面を掬った、希望に溢れる掌編集。

ひさしぶりのアンソロジーです。

19人の作家による始まりをめぐる19の物語。 続きを読む

「うつくしい人」 西 加奈子

周りの眼を気にし、神経を張り詰め生きてきた三十路OL。
ある日、職場で大泣きして逃げるように退職。
発作的に旅立った離島の高級リゾートで出会った、冴えないバーテンダーと日本語を流暢に喋る外国人との交流を描く。


優しい物語を想像していたら、案外重たくて痛々しくて、最初は読んでいてしんどかったです。
無駄な自意識と自己嫌悪に苛まれる主人公の泥沼のような苦しみに、もう本を閉じて読むのを止めてしまおうかと思ったほど。
その一方で、わからないでもないなと共感する場面もありました。

他人の目を通してしか自分を評価できない自分を軽蔑しつつも、そうしてきたからこそこの社会で生きてこられたという自負を持つ主人公。
著者自身、中二状態とあとがきで述べていますが、本当にそんな感じ。
自分の価値観の鎖から解放されて初めて辿り着ける境地、心の安定を手に入れるための軌跡でもあったこの物語。

旅は人の心を少しだけやわらかくしてくれる気がします。
肩の力を抜いてみたら、見える景色も違うはず、というのをラストで感じさせてくれます。
この本を書くことを通して、西さん自身も昇華されたんですね。

吸収すること、身につけることだけが、人間にとって尊い行為なのではない。
何かをかなぐり捨て、忘れていくことも、大切なのだ。   (p204)

★★☆

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「はちみつ色の」 西 加奈子

はちみつ色のお湯に浸かりながらこの本を読むのは、ものすごく幸せな時間でした。
入浴剤と短編小説がセットになった「ほっと文庫」
コンセプトが思い切り私の好みです。
パッケージもわくわくさせてくれる可愛さ。

1つ疑問なのは、何故冬でなくこの暑い時期の発売だったんだろうということくらい。
西さんの本はおそらく3冊目。読了感が好きです。
素朴にあたたかくなれます。

西さんの短編は初めてでしたが、とてもきれいにまとめられていて大満足でお風呂から出ました。
最初は口が悪いなー と思ったお母さんですが、双子への接し方や不器用な恋の仕方がいとおしくて、気づくと大好きになってました。
入浴剤は雰囲気重視のものですが、総合して楽しめる商品だと思いました。

根性があるよ、自分の好きなことをし続ける根性って、大人になったら、なかなか持てないんだ。   (p25)

★★★★

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「きいろいゾウ」 西 加奈子

夫の名は武辜歩、妻の名は妻利愛子。お互いを「ムコさん」「ツマ」と呼び合う都会の若夫婦が、田舎にやってきたところから物語は始まる。
背中に大きな鳥のタトゥーがある売れない小説家のムコは、周囲の生き物(犬、蜘蛛、鳥、花、木など)の声が聞こえてしまう過剰なエネルギーに溢れた明るいツマをやさしく見守っていた。夏から始まった二人の話は、ゆっくりと進んでいくが、ある冬の日、ムコはツマを残して東京へと向かう。それは、背中の大きな鳥に纏わるある出来事に導かれてのものだった―。

とても言葉がきれいな本です。
穏やかな日常と、忍び寄る試練、大切なものへの愛情が詰まってます。 続きを読む