「ポケットに物語を入れて」 角田光代

本は、開くとき、読んでいるときばかりではなく、選んでいるときからもう、しあわせをくれるのだ。
まるで旅みたい。読書という幸福な時間をたっぷりつめこんだエッセイ集。

本が好きな、あなたへ。

今まで書かれた文庫本などの解説や書評が詰まった、角田さんのブックガイド。
言葉の端々から、本が大好きでたまらないという想いが溢れ出ていて、思わず、わかるよわかる!と共感の嵐でした。 続きを読む

「いつも旅のなか」 角田光代

仕事も名前も年齢も、なんにも持っていない自分に会いにゆこう。
ロシアでは国境の巨人職員に怒鳴られながら激しい尿意に耐え、マレーシアでは釣りに行くのに12時間以上も地元の友達と飲みながら待たされ、キューバでは命そのもののように人々の体にしみついた音楽とリズムに驚かされる。

五感と思考をフル活動させ、世界中を歩き回る旅を、臨場感たっぷりに描く傑作エッセイ集。

旅を、したくなる。すぐにでも。

以前読んだ「世界中で迷子になって」という角田さんのエッセイで、角田さんが世界中を旅する旅好きであることは知っていました。

このエッセイは、角田さんが初めて旅について綴った記念すべきエッセイです。 続きを読む

「コイノカオリ」 角田光代 他

最近、恋のしかた、忘れてませんか?
ひとは、一生のうち何度恋におちるのだろう。
ゆるくつけた香水、彼のタバコや汗の匂い、好きな人に作った特別な料理——。
柔らかい恋の匂いをモチーフに繊細に、あるいは大胆に綴る、6つのラブスト−リー。

アンソロジーも、いいかもしれない。

いつまでも記憶に残る、恋にまつわる香りの話。
6人の著者によるアンソロジー。 続きを読む

「世界中で迷子になって」 角田 光代

旅の途中で、通勤電車の中で、疲れて帰ってきた夜に、旅先で寛いでいるときに…。
大人気作家、角田光代さんの言葉は、面白くてしゃれっ気たっぷり、いきいきと心に届きます。
意外にお茶目でひょうきんな一面も。難しいことは忘れてゆるーく楽しめる、そして、ハッとさせられる奥深さもある友達のような一冊です。


これは、おもしろい。
初めて読んだ角田さんのエッセイですが、読みやすいし、「わかるわかる」がたくさんあるし、思わずくすっとしてしまうところもあって夢中になって読みました。
前半は「旅」に関して、後半は「モノ(お買い物)」に関して。

角田さんのエッセイを読んだことのない私はよく知らなかったのですが、角田さん、バックパッカーとして世界中を旅されてたんですね。旅関連のエッセイを何冊も出されていることを今回初めて知りました。
世界中の国で出会った美味しいもの、お酒、空気感、今すぐにでも旅に出たくなるくらいわくわくしました。

クラムチャウダーが名物料理だというシアトルには一度行って、是非とも味わいたい。
それに、キューバの「グラスにミントの葉をぎゅうううっと入れ、砂糖とライムを加え、すりこぎ状のものでがりがり潰す」モヒートも飲みたいし(夏はモヒートに随分ハマった)、インドやトルコでチャイを飲み歩きたい。

それから買い物編も楽しい。
私も道具から入るタイプなので、ものすごく共感。それに本や飲み代にお金を惜しまないところも、わかるわかる。著名な作家さんだからお金もいっぱい持ってるんでしょ、と思いきや、実際たくさん持ってはいるのだろうけれど、金銭感覚が私と大差ない。
そして、この本を読んだ今「だしポット」が無性に欲しくてたまらない。意外と高い、のだけど、そんなに角田さんが絶賛するなら買ってみようかしら、なんて。

うきうきわくわく、世界を旅するように楽しくよめて、気分転換にもぴったりな1冊でした。

★★★★

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「紙の月」 角田 光代

何不自由ない、けれど時に違和感がよぎる夫との生活。
もし、あの日、あの人に付いて行かなければ、
もし、あの時、あんな風に手をつけなければ、
もし、、、
たくさんの「もし」を越えて、ついに果てしなく遠いところへ流された梨花は…――。


一度転がり始めたものを止めるのが難しいように、物語はぐんぐん進む。

あっという間に読みきったけれど、とても、怖かったです。
読みながら梨花の万能感を共有してみたり、手に入れたい服や化粧品を次から次に買う光悦感を味わったりもしましたが、最後は体の芯から冷たくなるくらいに怖くなりました。

もしかすると、大きな事件を起こした梨花と自分を隔てているのはほんの些細な何かで、自分も容易くそちら側にいってしまうかもしれない、なんて思う程、梨花の誤ちは日常と地続きで、たわいもなく染まっていってしまったから。
梨花だって、きっとこんな事件を起こすと思っていなかった。むしろ、事件の渦中においてすら、そんな風に思っていなかったのだから。
私たちが社会で生きるにおいて「お金」の力は大きい。

お金が湧水のようにあれば、なんだって買える。一方で、お金があったところで何も手に入らない、あるいは残らないということがある。
それなのに、私たちは簡単にお金に支配されてしまう。
そのことが、なんだか悔しいような、苦い気持ちになるのです。
そんな呪縛から逃れるためには、月並みかもしれないけれど、地に足をつけて生きること、が必要なのかもしれないですね。

装丁も本書の雰囲気にぴったり。さすが角田さんだなと何度か泣きたくなるような気持ちになりながら読み終えました。

お金というのは、多くあればあるだけ、なぜか見えなくなる。
なければつねにお金のことを考えるが、多くあれば、一瞬でその状態が当然になる。 (p300)

★★★★☆

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「八日目の蝉 」 角田 光代

逃げて、逃げて、逃げのびたら、
私はあなたの母になれるだろうか―――
” 理性をゆるがす愛があり
罪にもそそぐ光があった “

帯に書かれた言葉があまりに魅力的に物語を表していて、
読む前から惹かれ、読中は頭に浮かび、読了後は余韻とともに噛み締めました。

女性の襞について書かせたら、角田さんほど絶妙に書ける人はそうそういないんじゃないでしょうか。
そう思うくらいに、内面をえぐられます。
思い通りにいかない。どうして私が。もしも―だったら。

誰もが幸せになりたくて、それなのに現実は厳しくて、もがいてもがいて、それでも必死に生きている。
他人から糾弾されるようなこと、社会で断罪されるようなことでも、そうせずにはいられなかった。そういった数々のことが、物語の中に転がっています。
わかる、とは思わないけれど、もしも同じ立場になったら私もそうしないとは言い切れない。

同じように、もしも彼女が違う立場にあったなら、犯さなかった罪かもしれない。そう考えると、とても切ない。
タイトルになっている「八日目の蝉」のエピソードもいい。
物語終盤で頭によぎる海と、空と、雲と、光と、木と花とがあまりにきれいで、ああこれが8日目の蝉が見た景色かと思わずにいられなかった。
終わりの、その先。
そこにもこんなにも美しいものがあるんだと、光に溢れる物語に心が震えるようでした。

この物語には確かに、
理性をゆるがす愛があり、罪にもそそぐ光があった。

遠ざかれば遠ざかるほど、色鮮やかになる。
人の記憶とは、なんと残酷なんだろう。  (p343)

★★★★★

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「だれかのいとしいひと」 角田 光代

恋愛とか、友情とか、幸せとか、不幸とか、
そういったくっきりとした輪郭を持ったものに当てはまらない何か。
その何か、の近くにいる男と女の物語。


8つの短編集でした。
なんだろう。夢のような現実のような不思議な世界観。
どこか懐かしいような、儚く暗く、でも時折爽やかに明るい。
全体的に夏の物語が多く、寒いこの時期に読んでも夏の空気を感じました。

表題作である「だれかのいとしいひと」は、すごく角田さんぽい話。
アンソロジーでも似たような話を読んだことがあります。子どもの目線から見た親の恋人、みたいな設定。
なんだか少し切ない。

この短編集の中で大好きなのは「誕生日休暇」
主人公の臆病な行動に共感を覚えつつ、主人公を追体験。
バーで出会った男性の話を、まるで自分が聞いているような感覚で楽しみました。

こういう話大好き。
そしてこれが小説だからこそ、主人公のその後も知れて楽しめる。
静かな曇り空のような雰囲気から一転、爽やかな風が吹く青空のようなラストで終わるのがいい。

他の話も、少しもやっとした掴みどころのない感じがいいですね。
単純に1つの言葉にできないような感情とか、状態とか、たくさんあると思うんですよね。それをこんな風に描く角田さんが好きです。

★★★☆

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「presents」 角田 光代

女性が一生のうちで受け取る贈り物。
形のない「名前」や「初キス」から、「ぬいぐるみ」や「うに煎餅」に至るまで12個の贈り物をテーマにした短編集です。
イラストは松尾たいこさん。文と絵で織りなす、光り輝くプレゼントたちの物語です。


まるで包装紙のようなかわいらしいブックカバーに目を引かれました。
キラキラしていて、温かく、どこか懐かしさのある一冊です。きっと読みながら、自分も贈られた数々のものを思い浮かべていたからだと思います。
形のあるものにせよ、そうでないものにせよ、何かを贈られる時人はそのものだけでなく、相手の想いを一緒に受け取っています。だからこそ、贈り物は記憶に残るんでしょうね。

偶然にも主人公はアラサーが多く、ピンポイントに「わかるわかる」と深く頷くものもありました。
どの物語もいいけど、まずは「合い鍵」が好き。
8年間付き合った彼に、好きな人がいると別れを切り出される彼女の話。
「ぼくらの線は交わらない」の台詞が、そして8年間の重みがリアルでした。ラストも大好き。わかるわかる。

それから「うに煎餅」
100点の男を自ら逃す30歳女の話。
どんな豪華な贈り物より、心に届くものがある。
主人公が20歳だったら、あるいは40歳だったらまた違うラストになっていたかも。そんなことを思いながら楽しく読みました。

私たちは知らず知らずのうちにも、たくさんのものを贈られて生きていると思います。
そこに詰まっているのは日常の幸せであり、感謝であり、エールでもある。
読み終わって、この人生もまた神様からの、あるいは両親からの贈り物だと気付いてちょっとじーんとしました。贈り物にもいい一冊だと思います。

たとえ言葉が全部嘘でも、記憶だけはほんものだ。
「記憶があるっていうのはすごいことだね」
  <記憶> (p133)

★★★★

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「対岸の彼女」 角田 光代

直木賞受賞作。
高校生の時に読んでいたならきっと、惹かれたのは「大切なものは1個か2個で、あとはどうでもよくって、こわくもないし、つらくもないの」というナナコの言葉だったと思います。
高校生の頃は、とても世界が狭かったと思います。
その分密度が濃くて、人間関係にも過敏になっていた時期。
それだけあって、クラスの空気を読む力を持たない女性は少ないんじゃないでしょうか。
1人でいるのはまったく平気だけど、集団の中で孤立するのはとても居心地が悪くて、つい守りに入っていた自分がいた気がします。

今一番共感できたのは、修二とのくだりかもしれません。
たとえば、小夜子が感じた
「家の中は整頓され、手作りの料理が並び、引き出しにはアイロン済みの衣類が入っているその状態が、修二にとっては当然の、ゼロ地点なのだ。何かひとつでもおかしなことがあればそれはただちにマイナスになる」
というくだり。

やって当たり前のことかもしれないけど、認められたい気持ち。
家事は、まじめにやると結構大変なんだけどな。
働く母と専業主婦、集団に所属する高校生と自由奔放な高校生、子持ち既婚者と独身女社長。

まったく違う立場でいながら、通ずるもののある存在。
赤毛のアンがランプで合図をしていたように、対岸にいてもわかりあえる。
違うことにも価値があるんですよね。

ひとりでいるのがこわくなるようなたくさんの友達よりも、ひとりでいてもこわくないと思わせてくれる何かと出会うことのほうが、うんと大事な気が、今になってするんだよね。  (p97)

★★★☆

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