主に「いじめ」と「家族」をテーマにした短編集。
現代の家族を書くことを大きなテーマとしている著者だけあって、リアルな温度を感じる作品ばかりでした。
決して軽くはない話です。
むしろ、読了感はずしんと重い。
壮絶ないじめの描写には、思わず背筋がぞわっと毛羽立ちました。
それでも救いがないわけじゃなく、温かさも感じる作品たち。
「ワニとハブとひょうたん池で」
プライドを持って生きる主人公の健気さと強さがとても眩しく感じました。
私も同じ立場だったらきっと、両親には何がなんでも隠すんだろうな。
ゲーム感覚でしているのが、本当にタチが悪い。
「ナイフ」
弱いくせに、不器用なくせに、かっこいい父親の話。
“生きることに絶望するような悲しみや苦しみには、決して出会わないように”
子どもが生まれた時に、そう祈ったというエピソードに目頭が熱くなりました。
親の愛とはこんなにも大きいんだろうか。
「キャッチボール日和」
どうして息子の生まれた父親って、キャッチボールをするのが夢だと思う?
“キャッチボールは、向き合えるからだよ”
理想通りじゃなくても、期待通りじゃなくても、愛すべき存在。
最初から誰もがそう思えるわけじゃないんだ。
そんな当たり前のことと、反省ではなく必要なのは後悔、という話がグサッと刺さりました。
「エビスくん」
親友だろ、ってなんて嫌な言葉、と何度も思いました。
そのくせ純粋な主人公の切なる願いに泣きそうになりました。
“あいたいなあ、ほんま、ごっつ会いたいわ。どこにおんねんや、きみはいま”
哀愁を伴う余韻が少し心地いい。
「ビタースイート・ホーム」
一生懸命生きてるからこそ間違うし、難しい迷路に迷い込む。
でもそれは悪いことじゃない。そう思える話でした。これが家族であり日常なんだ。
まさにタイトル通り。
そして何気にずしんときたのが、あとがき。
著者の重さの原点を垣間見た気もしました。
死はきっと著者にとって遠い存在ではなく、身近に感じるものなんだろうな。
「親が首を突っ込むっていうのは、屈辱なんだ。恥ずかしくてたまらないから、こないだも、おまえを殴ったりしたんだよ。泣き言なんか言いたくないし、自分の負けてるところを家族には見せたくないんだ」 (p89)
★★★★
